27歳企画職の彼女が関ヶ原の戦いに挑む前夜の事 ビジネス小説「もしも彼女が関ヶ原を戦ったら」序章

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「今日は一段と激しいですね……」

大祝(おおほうり)みやびは、ショートカットの髪をかきあげ、声をひそめて隣に座っている社長室長の三島に話しかけた。

「これは荒れそうだな……」

三島は正面を見据えたまま小さくつぶやいた。

「役員会のたびにこの調子じゃ、こっちの身が持たないよ……」

みやびは周りに気づかれないようにうなずいた。

大祝みやび27歳。ゲーム業界の老舗、グローリーゲームスに入社して5年目になる。マーケティングチーム、経営企画室を経て現在は社長室企画部に勤務している。学生時代はソフトボールに明け暮れ、ゲームとは無縁だったが、就職活動でなにげなく受けたグローリーゲームスの当時社長であった司馬山凌の人間的魅力に惹かれて入社を決めた。

グローリーゲームスは『戦国大戦略』をはじめ、歴史シミュレーションゲームで名高いゲーム業界の名門企業だ。創業社長である司馬山の卓越したアイディアとリーダーシップで、少人数ながらも名作と呼ばれるゲームを世に送り出し続けてきた。

豊臣秀吉のようなカリスマ創業社長を失った

しかし司馬山が2年前に急逝してからは、業績は低迷の一途をたどっている。ゲームに知見のないみやびは入社以来、ゲーム会社の花形である開発本部以外の部署で働いてきた。好奇心は強いが猪突猛進なところがあり、そのせいで失敗したことも多く、最近はサポート役に徹しようと己を戒めている。仕事にはそれなりにやりがいはあるものの、自分がこの会社に貢献できているのだろうかと悩むこともしばしばだ。

「リストラありきの組織改革など議論になりません! まずは業務改善などを行い、それでも結果が出なければリストラというのが常道ではありませんか!」

激しい語気で主張しているのは、経営企画室長の星聖児40歳。みやびの元上司で、細身で均整の取れた身体を濃紺のスーツに包んでいる。ラフな格好が主流のグローリーゲームスでは異色といってもいい、銀行マンのようないでたちだ。短い黒髪を綺麗に整え、白い肌に鳶色の瞳。美形といえば美形だが、眉間に刻まれた深いシワが、この人物の気難しさを物語っている。

故司馬山凌に寵愛され、司馬山の在任中は実質上経営を任されていたといっても過言ではない。全身から才気がみなぎっており、己の頭脳明晰さへの自信が彼独特の傲慢さを醸し出している。本人は意図していないのだろうが、彼のこうした雰囲気や物言いに反発する社内の人間も少なくない。みやびも部下だったころは、この高圧的な雰囲気に随分と悩まされたものだ。

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