27歳企画職の彼女が関ヶ原の戦いに挑む前夜の事 ビジネス小説「もしも彼女が関ヶ原を戦ったら」序章

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強引な事業整理案にただ一人猛反発

「業務改善には充分な時間を与えたはずだ。これ以上、だらだらと痛みの伴う改革を引き延ばせば、グローリーゲームスは茹で蛙になってしまう」

星に毅然と反論したのは、副社長である多々良健一65歳。

多々良は、ゲーム業界のレジェンドとも言うべき人物だ。業界では伝説となったゲーム機「サターンステーション」の開発者として知られ、開発元である株式会社サターンを退職後、サターンのライバル会社であるベガに移籍、大ヒット作『クライシス』をプロデュース。直近では、経営の傾いた株式会社フェニックスを代表取締役社長として立て直し、話題となった。司馬山とは、ゲーム業界の重鎮として肝胆相照らす仲であった。その司馬山に口説かれ、代表権を持つ副社長としてグローリーゲームスに迎え入れられた。

「君がどう捉えているかわからんが、既に当社は経営危機に瀕している」

多々良は、身長180センチ、90キロを超える巨体を、ゆっくりと現社長である司馬山浩一に向けた。

「社長はこの件、ご了承くださったはずですが、星くんの意見をどうお考えですか?」

穏やかな口調だが、その眼光は鋭い。有無を言わせぬ圧力があった。

「それは……」

社長である浩一は口をモゴモゴとさせ、視線を机の上の資料に落とした。今年で37歳になる浩一は証券会社に勤めていたが、父である司馬山凌の体調が悪化したことを機に急遽グローリーゲームスに入社することとなり、社長室長を経て代表取締役に就任した。

したがってゲーム業界の知識はなく、司馬山の死後は副社長である多々良と経営企画室長である星の対立に挟まれ、いつも困った顔をしている。この時も、ただでさえ小柄な身体をさらに縮めて、黒いふちの大きな眼鏡の位置をしきりに直していた。

メイン商品以外を育てられなかったツケ

「今、我々は『戦国大戦略』に頼り切りだ。しかしシリーズを重ねるたびに投資額が増え、その反面、売り上げは伸び悩んでいる。モバイルゲーム展開もスムーズに進んでおらん。体制を一新するには今しかない」

多々良は落ち着いた口調で星に言った。正論である。

「……」

星は答えに窮して、他の出席者の助けを求めるように視線を送ったが、皆、顔を伏せ、星の視線を避けた。

「岡本くん。君はどう思うんだ?」

多々良は、星の隣で神妙な顔をしている、金髪にアロハシャツという派手な格好の男に声をかけた。

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