27歳企画職の彼女が関ヶ原の戦いに挑む前夜の事 ビジネス小説「もしも彼女が関ヶ原を戦ったら」序章

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岡本由伸45歳。

グローリーゲームス創設まもなく入社し、司馬山のもと開発本部ひと筋でキャリアを築いてきた。突出した才能はないがバランスよく部下をまとめることが上手で、司馬山の無茶な要求をこなすうえで欠かせない存在であった。如才ないタイプでもあり、司馬山亡きあとは多々良に従い、その意見に異を唱えることはない。一方で縄張り意識が強く、他部署との軋轢が絶えない。星とは特に犬猿の仲と言ってもよかった。

「私の力不足で申し訳ありません。副社長のおっしゃる通りです」

岡本が多々良に頭を下げた。

「岡本さん! それでいいんですか!」

星は激昂して岡本に詰め寄ったが、岡本はその星に冷たい視線を送った。

「星くん。副社長が来る前は、君も同じことを言ってたじゃないか。それをいまさら、こちら側に立つような意見を言われてもな」

岡本の反論に星は答えに詰まった。岡本の言う通り、多々良が入社する前は、星は多々良と同じようなスタンスで岡本やマーケティング部門の責任者に詰め寄ったものだった。そのことで星を嫌う役員や部門長は多い。彼らにとっては星も多々良も似たようなものなのである。であれば今、社内での実質的な最高権力者である多々良の言うことを聞いたほうがいい。岡本以下役員たちの本音であった。

カリスマ副社長に異論を挟めない二代目社長

「今、グローリーゲームスは事業立て直しの岐路に立っている」

星が返答できないのを見て、多々良は役員全員を見渡しながら言葉を続けた。

「まだ会社の体力があるうちに事業の再構築を進めるべきだ。結果の出ないプロジェクトは撤退し、成果の出るものに集中する。選択と集中を行う必要がある」

多々良の言葉に星はにらみつけるように視線を返し、社長である浩一は眼鏡の位置を直し、その他の者はひたすら下を向いていた。

「問題を先送りして処置ができないほど悪化してから動くか、まだ余力のあるうちに事業再構築に進むか。社長。お答えください」

多々良は浩一に迫った。浩一には、もう多々良に抗する気力は残っていなかった。小さくうなずいた。しかし多々良は、そこで手をゆるめることなく、

「社長。はっきりおっしゃってください。皆に聞こえるように」

「副社長のおっしゃる通り事業再構築計画を進めたいと思います」

「副社長、いっそう高圧的になってきたな……」

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