27歳企画職の彼女が関ヶ原の戦いに挑む前夜の事 ビジネス小説「もしも彼女が関ヶ原を戦ったら」序章

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「星さん……」

経営企画室長の星が真っ赤な顔をしてグラスを傾けている。

「なんだ……大祝か……」

もうすっかりでき上がった様子で呂律が回っていない。

「開店と同時に来られましてね」

佐々木は苦笑まじりにみやびに言った。

「星さんがあんなに酔った姿、初めて拝見しました」

星はそもそも酒を飲むほうではないし、いつも冷静で崩れない。部下だったころに何度か酒席をともにしたことはあるが、程度をわきまえ綺麗な飲み方だったと記憶している。

「私も初めて酔ってるところを見ました」

まずいところに出くわしたものだと、みやびは唇を噛んだ。このまま知らん振りしてカウンターで飲むのも、なんとなくバツが悪い。それなら帰ったほうが……。

「おい! 大祝! こっちに来い!」

そっと踵を返そうとしたみやびに星が声をかけた。

「あちゃ……」

しまったというみやびの表情がおかしかったのだろう。佐々木はクスッと笑いながらお気の毒にと頭を下げた。

「マスター、こいつにも同じものを」

星は片手に持ったグラスをマスターに向けて言った。

「なに飲まれてるんですか?」

みやびは星にではなくマスターに質問した。

「シェリーウッドをストレートで」

「私は、ジンジャーエールを」

みやびは、そう言って星がいるボックス席に座った。星につき合って飲む気はない。適当にあしらって帰宅することにした。残念だが、ひとりでゆっくり飲むのはまたの機会だ。

会社の極秘プロジェクトの存在を知る

「なんだ。社長室は経営企画室の酒は飲めないのか?」

星は酔った目でみやびをにらみつけた。

「おまえも多々良の犬に成り下がったな。情けない」

面倒くさい。みやびはため息をついた。

「星さん。もうだいぶ酔ってらっしゃいます。無理なさらず、もうお帰りになったほうがいいですよ」

「なにを言ってる! 俺は酔ってなんかないぞ!」

星はグラスを一気にあおった。そして激しくせき込む。

「お水をどうぞ」

佐々木が、みやびのジンジャーエールといっしょに水も運んできてくれた。

「ありがとうございます」

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