「星さん……」
経営企画室長の星が真っ赤な顔をしてグラスを傾けている。
「なんだ……大祝か……」
もうすっかりでき上がった様子で呂律が回っていない。
「開店と同時に来られましてね」
佐々木は苦笑まじりにみやびに言った。
「星さんがあんなに酔った姿、初めて拝見しました」
星はそもそも酒を飲むほうではないし、いつも冷静で崩れない。部下だったころに何度か酒席をともにしたことはあるが、程度をわきまえ綺麗な飲み方だったと記憶している。
「私も初めて酔ってるところを見ました」
まずいところに出くわしたものだと、みやびは唇を噛んだ。このまま知らん振りしてカウンターで飲むのも、なんとなくバツが悪い。それなら帰ったほうが……。
「おい! 大祝! こっちに来い!」
そっと踵を返そうとしたみやびに星が声をかけた。
「あちゃ……」
しまったというみやびの表情がおかしかったのだろう。佐々木はクスッと笑いながらお気の毒にと頭を下げた。
「マスター、こいつにも同じものを」
星は片手に持ったグラスをマスターに向けて言った。
「なに飲まれてるんですか?」
みやびは星にではなくマスターに質問した。
「シェリーウッドをストレートで」
「私は、ジンジャーエールを」
みやびは、そう言って星がいるボックス席に座った。星につき合って飲む気はない。適当にあしらって帰宅することにした。残念だが、ひとりでゆっくり飲むのはまたの機会だ。
会社の極秘プロジェクトの存在を知る
「なんだ。社長室は経営企画室の酒は飲めないのか?」
星は酔った目でみやびをにらみつけた。
「おまえも多々良の犬に成り下がったな。情けない」
面倒くさい。みやびはため息をついた。
「星さん。もうだいぶ酔ってらっしゃいます。無理なさらず、もうお帰りになったほうがいいですよ」
「なにを言ってる! 俺は酔ってなんかないぞ!」
星はグラスを一気にあおった。そして激しくせき込む。
「お水をどうぞ」
佐々木が、みやびのジンジャーエールといっしょに水も運んできてくれた。
「ありがとうございます」
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