27歳企画職の彼女が関ヶ原の戦いに挑む前夜の事 ビジネス小説「もしも彼女が関ヶ原を戦ったら」序章

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「岡本さんなんか、あからさまに副社長につかれたじゃないですか」

「星さんは嫌われ過ぎたんだな」

「まぁ……」

三島の言葉にみやびは苦笑した。確かに星は嫌われている。星が相手の立場を考えずに正論で詰めて相手のメンツを潰した場面を、みやびは何度も見てきた。一方、多々良は確かに強引で高圧的なところもあるが、正論だけで相手を追い詰めることはなく、場合によっては相手の立場を慮るふところの深さも見せてきた。老練な多々良は、あえて貸しをつくることで相手の反発を巧みに抑え、徐々にグローリーゲームスでの主導権を奪ってきた。一本気な星とは役者が違うと言わざるを得ない。

「いずれにせよ。社長室としては副社長の意見に従わなきゃいけない立場だが、星さんと対立するのは気が重いな。君も元上司と闘うことになるから覚悟しておいてくれ」

三島はそうみやびに言うともう一度、今度は周りが振り向くような大きなため息をついた。月曜の午前中の出来事であった。

プライベートの時間に元上司と遭遇

その夜、みやびは行きつけのバーに出かけた。このところバタバタと忙しく自宅と会社を往復する日々だったが、社長と副社長がともに会食で早めに外出したこともあり、めずらしく定時で仕事を終えることができた。久しぶりに大学時代の友人と食事をして、仕事から離れて楽しい時間を過ごしたのだが、やや飲み足りない気がしてひとりでもう少し飲もうと思ったのだ。

このバーは、グローリーゲームスの面々がときどき集う場でもあるが、月曜だし今日は自分ひとりだろうとタカをくくり、扉を開いた。

「いらっしゃいませ」

店内にはゆったりとしたクラシックが流れている。マスターの佐々木が笑顔でみやびに視線を送った。佐々木はもう70歳近い品の良い老人だ。かつては都内の高級ホテルでバーテンダーをしていたらしいが、定年を機にこのバーを開いたそうだ。佐々木の穏やかな人柄と、聞き上手でありながら、ときおりハッとさせられるアドバイスを求めて、迷えるビジネスパーソンが通う場所でもある。

「今日はおひとりなんですね」

佐々木がみやびに話しかけた。

「はい。たまにはひとりもいいかなと思って」

「そうなんですね。でもめずらしい方が先にいらっしゃっていますよ」

「めずらしい方?」

みやびが首をひねると、佐々木はそっと店の奥に一つだけあるボックス席のほうを指した。そこには、みやびの見慣れた顔があった。

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