子供の知能をほめると成績が下がる驚くべき理由 能力は努力で変えられる、挑戦も失敗も機会

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 5
拡大
縮小

ドゥエックの『「やればできる!」の研究——能力を開花させるマインドセットの力』(草思社)から引用したこれらの例は、生徒たちや意欲的なスポーツ選手など、その他誰が相手であっても、やりとりのあり方についてのまったく新しいアプローチを示唆している。

称賛すべきは努力であって、才能ではないこと。能力が努力によって大きく変えられることを強調すべきだということ。他人にも自分自身にも、挑戦は脅威ではなく学習機会だととらえるよう教えること。失敗は断罪ではなく機会と解釈すべきであること。

優秀な子供にはどんな声かけが効く?

では、課題をたやすくたちまちこなしてしまった生徒はどうほめればいいのか? 苦労一つせずなにかをやりとげてしまった場合は、努力でなく才能をほめるしかないのでは? ドゥエックの助言はこうだ。「そんなときはこう言えばいい。『あらあら、簡単すぎたわね。時間を無駄にしてごめんなさい。本当にためになることをやりましょう』」。

才能の科学;人と組織の可能性を解放し、飛躍的に成長させる方法
『才能の科学;人と組織の可能性を解放し、飛躍的に成長させる方法』(河出書房新社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

ドゥエックの調査が持つ意味合いはじつに深い。多くの教育者たちは、水準を下げれば生徒に成功体験が与えられ、自尊心を高めてそれが成果を挙げると主張してきた。それこそアメリカやヨーロッパ各地の教育機関が1970年代、80年代のほとんどを通じて掲げていた哲学であり、いまも影響をおよぼしている。

だがこれで、いかに善意から出たことであっても、教育信念としてはこれが生徒をむしばむものだとわかる。「それは生徒の知能を過剰にほめるのとまったく同じ哲学から生まれている」と、ドゥエックは書いている。「だが、そんなのはうまくいかない。水準を下げると、生徒たちはあまり教育を受けずに終わるだけで、しかも簡単な課題で大仰なほめ言葉がもらえると思いこんでしまうのだ」。

マシュー・サイド コラムニスト、ライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ましゅー・さいど / Matthew Syed

1970年生まれ。イギリス『タイムズ』紙の第1級コラムニスト、ライター。オックスフォード大学哲学政治経済学部(PPE)を首席で卒業後、卓球選手として活躍し10年近くイングランド1位の座を守った。英国放送協会(BBC)「ニュースナイト」のほか、CNNインターナショナルやBBCワールドサービスでリポーターやコメンテーターなども務める。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT