原油高と円安で日本の“赤字化"は不可避なのか 第一生命経済研究所の星野氏に見通しを聞く

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今後の経常収支の動向をシミュレーションした星野氏は「経常収支が黒字だからいい、赤字だから悪いとも一概に言い切れない」と話す。

日銀の黒田東彦総裁(右)はここに来て、急速な円安を牽制する姿勢を見せ始めた(写真:左は編集部、右は尾形文繁)

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原油高と円安が進む中、日本の経常収支は、2021年12月、2022年1月と2カ月連続で赤字を記録、続く2月も経常黒字が前年同月比42%減と7年ぶりの低水準にまで縮小した。
2月下旬から始まったウクライナ戦争により、原油高はさらに騰勢を強めるほか、3月以降は円安も急速に進行し、足元では1ドル129円台と約20年ぶりの円安・ドル高水準をつけた。また、4月20日に発表された貿易統計速報によると、3月の貿易収支は輸出が増加したものの、石油への支払い拡大で8カ月連続の赤字(4124億円)となった。
2つの悪材料の下、日本はこのまま経常赤字国になってしまうのか。先頃、経常収支のシミュレーション分析結果をリポートにまとめた第一生命経済研究所の星野卓也・主任エコノミストに今後の見通しについて聞いた(インタビューは4月13日)。

2022年は経常黒字か赤字かの微妙なラインに

――3月8日に発表された2022年1月の経常収支の赤字幅は、過去2番目の大きさとなり、金融市場で急速な円安が進むきっかけとなりました。

2月の経常収支はいったん黒字化し、前月に比べ改善した。しかし、ウクライナ戦争が始まってから原油は一時1バレル=120ドルを超えるなど一段と高い水準をつけており、3月以降の経常収支(季節調整値)は再び、月次ベースで黒字が一段と縮小するか、または赤字になる可能性が高まった。

2021年(1~12月)の日本の経常収支の内訳を見てみると、海外への直接投資や証券投資から得られる配当金や利子所得を中心とした第一次所得収支が20.4兆円の黒字を計上しているのに対し、貿易収支が1.8兆円の黒字にとどまり、サービス収支は4.3兆円の赤字だ。原油高や円安で貿易収支の赤字が拡大して第一次所得収支の黒字を上回ると経常赤字国になる構造といえる。

4月上旬に発表した当社のリポートでは、原油価格と為替の変化を想定して試算を行っている。2022年平均のドバイ原油価格が100ドルかつドル円レートが120円であれば赤字に至らないが、原油価格が120ドルまたはドル円が130円になれば、2022年通年の経常赤字が現実味を帯びるという結果だ。

現在、ドル円は125円近辺で、原油価格も100ドルあたりで推移している。仮にこの水準が継続するとすれば、経常黒字か赤字かの微妙なライン上にあるといえるだろう。

――そもそも経常赤字になると、日本にはどのような影響があるのでしょうか。

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