日本の「円安メリット」はもはや過去のものだ 「ミスター円」こと榊原英資・元財務官に聞く

✎ 1〜 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 5 ✎ 最新
拡大
縮小
榊原氏は「今はもう円高のほうが日本にとってプラスになる」と述べた(記者撮影)

特集「円安事変」の他の記事を読む

円ドル相場はロシアのウクライナ侵攻後、しばらく1ドル=115円前後で膠着していたが、3月中旬から急速な円安に傾き、3月28日には一時125円台をつけた。その後やや戻したが、円売り圧力は依然として強い。総合的な円の実力を示す実質実効為替レートは約50年ぶりの低水準となっている。
今後の為替相場はどこへ向かうのか。どのような政策が必要になるのか。1990年代後半に大蔵省(現財務省)で財務官を務め、円買いドル売り介入を指揮した経験も持つ「ミスター円」こと榊原英資・現財団法人インド経済研究所理事長に当時の状況を含めて話を聞いた(インタビューは4月4日)。

――昨今の円安をどう見ていますか。

基本的には円安というよりドル高だ。ドルは円だけでなくユーロに対しても昨年来、上昇基調が続いている。

アメリカ経済は順調に回復しており、日本に比べて成長率の高いことが要因として大きい。2010年代の実質GDP(国内総生産)の平均成長率は、アメリカは2%台前半で日本より1%ぐらい高い。(コロナ禍からの景気回復期となった)2021年は日本が2%程度だったのに対し、アメリカは6%近い。今年以降もアメリカ経済の相対的な強さが続く見通しだ。

円買いにはアメリカの同意が必要

――アメリカでは消費者物価指数が前年同月比7%以上の伸びを記録するなど40年ぶりの高いインフレが発生し、連邦準備制度理事会(FRB)は3月に利上げを行い、実質ゼロ金利政策を解除しました。政策金利は来年末までに2.5%程度へ引き上げられると予想されています。

アメリカは成長力が高く、雇用も好調なため物価が上昇している。コロナ禍で導入した異例の金融緩和政策を正常化させるプロセスに、日欧に先行して入ったということだ。賃金も上がって景気が強いので、物価上昇についてはそれほど憂慮すべきことではない。

一方、日本は成長力が低く、金融政策の正常化は遅れる。日米の金利差は2023年にかけ拡大が続く見通しで、それがマーケットの円安ドル高予想の背景にある。

――足元は1ドル=122円台ですが、今後をどう予想しますか。

次ページ為替介入の可能性は?
関連記事
トピックボードAD
連載一覧
連載一覧はこちら
トレンドライブラリーAD
人気の動画
日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情
日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情
ヤマト、EC宅配増でも連続減益の悩ましい事情
ヤマト、EC宅配増でも連続減益の悩ましい事情
倒産急増か「外食ゾンビ企業」がついに迎える危機
倒産急増か「外食ゾンビ企業」がついに迎える危機
Netflixが日本での「アニメ製作」を減らす事情
Netflixが日本での「アニメ製作」を減らす事情
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
特集インデックス
円安事変
円安の加速でも「為替介入」が困難な根本理由
JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏に聞く
実は「50年ぶりの円安」を理解するためのポイント
円安影響を8つのポイントに絞りQ&A形式で解説
ニトリ、強気の「連続記録更新」を揺さぶる大試練
「36期連続増収増益」へ円安や特需一巡が打撃に
日本の「円安メリット」はもはや過去のものだ
「ミスター円」こと榊原英資・元財務官に聞く
円安が自動車部品会社に加える「トドメの一撃」
猛烈な原材料高を製品価格に転嫁させられるか
126円突破の背景は「ドル高」ではなく「円安」だ
この円安阻止に日本政府には何ができるのか
円安急襲の外食チェーン、明暗分ける「意外な差」
サイゼリヤは海外へのソースなどの輸出も視野
「本当に怖い円安」は家計の海外資金逃避で起きる
「円売り」が企業から個人にも広がれば大規模に
原油高と円安で日本の“赤字化"は不可避なのか
第一生命経済研究所の星野氏に見通しを聞く
インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実
超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環
「円の独歩安」が続くといえる一目瞭然の分析
内需の低迷、資源高、通貨安に苦しむ日本経済
円安加速、日本銀行は「行くも地獄退くも地獄」
東短リサーチの加藤出社長に聞く「黒田リスク」
ECBの利上げが招くユーロ「140円台」到来はいつか
「ラガルド流」で利上げは7月、9月のどちらか
「中央銀行の債務超過」と「通貨安」は直結するのか
「中銀の財務健全性」は結果、問題は政府債務
「過剰な円安」で迫られるアベノミクスの後始末
「貧しい日本」という国難が現実化しつつある
岸田政権「資産所得の倍増計画」は何がダメなのか
英国の講演で日本の個人金融資産をアピール
「円安の行方」を占うアメリカの重要な経済指標
短期的にはドル高円安圧力が続く可能性が強い
中国「ゼロコロナ政策」の固執が招いた供給不安
日本の産業政策を再考すべき時が来ている
岸田首相はインバウンドの「全面解禁」を急げ
脱コロナの好機、円安抑止と景気浮揚に効果大
円安相場、「内外金利差の売り」はこれから本番
貿易赤字拡大と金利差拡大で年内はまだ円安進む
円安抑止へ「レパトリ減税」という真っ当な処方箋
投機でなく需給にアプローチする手段が必要だ
「円安」と「物価高」に対抗しない黒田日銀の課題
野村総合研究所の木内氏に日本経済の課題を聞く
「春になれば円安は止まる」という見立ての死角
為替介入も政府と日銀の行動が逆では迫力欠く
政府・日銀の円買い介入でも円安は止められない
低インフレからインフレへ30年ぶりレジーム転換
「半世紀ぶりの円安水準」が示す日本経済の問題
SMBC日興の森田チーフ金利ストラテジストに聞く
為替介入でも止まらぬ円安、「国民感情」悪化懸念
やりすぎた日銀と課題を放置した政府のツケ
巷間ささやかれる「ドル暴落説」と円相場を考える
アメリカが「ドル高で困る」状況はいつ来るか
半分になった円の価値、もっと深刻な「実質価値」
「安い日本」は円安になる前から続いてきた問題
投機筋「ドル売り持ち」は潮目変化の先取りなのか
「ドル売り」=「円買い」ではないことに注意
トレンドウォッチAD
  • 新刊
  • ランキング
東洋経済education×ICT
有料会員登録のご案内