ウクライナ戦争は世界の経済覇権をどう変えるか 「敵対的な経済圏」の併存を生む可能性も

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世界経済におけるG7の経済的地位は相対的に低下し続けている。写真と本文は直接関係ありません(撮影:尾形文繁)

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ロシアによるウクライナ侵攻で経済制裁が拡大。また、停戦協議はまとまらず戦況は長引き、泥沼化の様相を呈している。Gゼロ(リーダーシップ不在)の中で世界経済の構造は変わりつつあるが、ロシアによるウクライナ侵攻はこれに拍車をかける。
冷戦時代からロシアと欧州の経済を見てきた立教大学の蓮見雄教授に話を聞いた。インタビューの前編では長期的な各国経済への影響を、後編は世界経済と覇権をめぐる問題を取り上げる。

 

――蓮見さんは、現在は世界経済の覇権が大西洋から太平洋へと構造的に変わる過程であり、冷戦後という枠組みが変わることを示唆しました(詳しくはインタビュー前編)。まず、今回の事態をどう総括されますか。

武力で犠牲者を出すことは正当化されないが、プーチンは隣にNATO(北大西洋条約機構)が来ることは嫌だと10年前から何度も主張していた。2008年にNATOのブカレスト首脳会議で挿入されたジョージア、ウクライナが「NATO加盟国となる」との文言について、プーチンはロシアの声を西側が無視していると感じただろう。

はすみ・ゆう/1960年生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。ソビエト連邦・ロシア経済から欧州経済、エネルギー政策まで研究。立正大学教授を経て2017年から現職。著書に『沈まぬユーロ』(共著)など(写真:本人提供)

よく問題になる「NATOの東方拡大をしないという約束」だが、そんな約束はなかったという。だが、文書がないから約束はないというのは、西側世界の常識から見た場合であって、ロシアからすると、そういう会話があったのは事実なので「それって約束だよね」と言い張っている。

同じ文書を見ても、同じ言葉を聞いても、それを理解するときのお互いのロジックや関心が異なるため、結果的に誤解が生じる。近年、対話が少なくなっていたことも、欧米とロシアの認識の溝とプーチンの疑念を深める結果となった。

経済でも新興国が大きく躍進し、G7からG20の世界になった。いまは、欧米のロジックとは違うロジックで動いている国はたくさんあるわけで、中国、インド、ブラジルなどは、対ロシア経済制裁に参加していない。その存在を否定してみても、これらの国々に、アメリカが制裁をかけると言ってみても、問題解決にはならない。近い将来、中国だけでなくインドが経済的に台頭してくるとなればなおさらだ。

プーチンは悪い奴だ、プーチンを排除すれば安全が保てる――そんな論調が高まっているが、本当にそれだけで解決できるのかと問いたい。プーチンがいなくなってもロシアでは混乱が残るだけかもしれない。企業でも国家でも、トップが変わればすべて変わるというわけではない。ロシアで、変わっていくもの、変わらないものをよく見極めて、距離の取り方を考えていく必要がある。

冷戦終結後30年のやり方を見直すとき

――冷戦終結後は資本主義の勝利が喧伝され、民主主義と同時に経済では市場原理重視、新自由主義の思想が広がりました。

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