「インフレになったら、歳出削減や増税で対応すればいい」「公的債務残高(対名目GDP)は減る」と主張する積極財政派は少なくないが、そう簡単ではないことを歴史が示している。
政府・日本銀行による「円安牽制発言」もむなしく、円安が止まらない。
円安により輸入品物価が上昇する中、企業が原材料高を十分に価格転嫁できなかったり、賃上げが不十分であったりすることを挙げ、「悪い円安と言えるのではないか」と繰り返し発言してきたのが、鈴木俊一財務相だ。
4月18日の国会では、日銀の黒田東彦総裁も「大きな円安や急速な円安はマイナスが大きくなる」と述べた。しかし、それ以降も円安は進み、20日には一時20年ぶりの安値となる1ドル129円台半ばを付けた。
日本経済や財政にとって、確かに悪い円安になりつつある。
岸田文雄政権は、4月中のとりまとめに向け、ガソリンや食品などのインフレに対応する「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」の策定作業を急いでいる。2022年度予算に計上されているコロナ対策などの予備費5.5兆円を活用し、当面の支援策を打ち出す方針だ。
財務省は政治家の“おかわり”を警戒
さらに緊急対策とは別に、7月に迫る参院選挙の公約として大型の経済対策を組み、参院選挙後に補正予算を編成する2段構えの案が与党内で強まっている。財務省と太いパイプを持つ菅義偉前首相が公明党との連携を強めながら根回しを進めているもようだ。
実は、予備費5.5兆円を活用したインフレ対策を岸田政権に進言したのは財務省。急激な資源高や円安を受けて何らかの経済対策は避けられないと見て、機先を制することで財政出動を予備費の範囲にとどめることを狙ったのだ。だが、政治家サイドからの歳出拡大圧力は高まる一方。「予備費を使ったうえに、補正予算の『おかわり』までされたらたまらない」と財務省幹部は身構えている。
今後政府から発表される物価の情報は、インフレをめぐる国民心理を一段と悪化させる可能性がある。目先の注目は、5月20日に発表予定の4月の消費者物価指数(CPI)だ。
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読み頂けます。
登録は簡単3ステップ
東洋経済のオリジナル記事1,000本以上が読み放題
おすすめ情報をメルマガでお届け
無料会員登録はこちら
ログインはこちら