野球データ分析で日本がアメリカに抜かれた訳 「精神論」が幅を利かせる日本のスポーツ界

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森本氏は、全日本野球協会の山中正竹理事長が主催する野球指導者講習会(BASEBALL COACHING CLINIC=BCC)で、スポーツマンシップの講義を行った。森本氏は日本スポーツマンシップ協会の理事でもあるのだ。スポーツマンシップとデータはどんな関係にあるのか。

「スポーツでいちばん楽しいのは勝つことです。勝つためには、やみくもに頑張るだけではなく考えるべきことが多くあります。あきらめない気持ち、意志、勇気、仲間をリスペクトすること、そうしたことを考えずに何が何でも勝てばいいというのはスポーツではありません。

スポーツは不正をして勝っても、不公平な条件の下で買っても面白くないことはスポーツをしたことがある人ならみんなわかるはずです。ルールという公平な条件の下で勝つために、他の人やチーム以上の努力や工夫をするものです。

私がインタビューした欧米のデータ開発者、研究者なども異口同音に語っていますが、スポーツのデータ化の促進と普及が積極的に行われている前提には、公平さ、公正さが不可欠です。スポーツマンシップは、スポーツデータ活用の大前提でもあるのです」

日本のスポーツ界に必要なもの

新型コロナ禍を経て、日本のスポーツ界は大きく変貌すると思われる。

Doスポーツは学校の施設や公園、民間のスポーツクラブなどで行われることがほとんどで、主に自分の判断を基に行われる。

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「プロ野球は入場者数の上限を決めてチケットを販売していますが、すぐに売り切れるかと思ったらそうでもない。これまで球場に野球以外の楽しみを求めて来場していたようなファンは、コロナ禍による緊急事態宣言を機に行動変容が起き、入場者数は中期的に減少すると思います。

そうしたファン層の変化に対応するためにも、スポーツ界にとってデジタル化のさらなる推進は必須になるでしょう」

NPBでも12球団本拠地にはトラッキングシステムが完備され、最近は新しい機器への換装も進んでいる。さらに甲子園球児でさえも投球の「回転数」「回転軸」に言及するようになった。

しかし、日本野球界、スポーツ界の「本格的なデータ活用」は、世界と比較して大きく後れを取っているという印象だ。スポーツに必要なものとして相変わらずの「精神論」が幅を利かせ、これがスポーツの進化の妨げになっている。

ポストコロナの日本スポーツ界にとって必要なのは、まさしく森本氏の言う「アナリティックマインド」ではないかと思う。

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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