野球データ分析で日本がアメリカに抜かれた訳 「精神論」が幅を利かせる日本のスポーツ界

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映像編集作業を効率化すれば、その分、本来の分析作業に時間をかけられるはずだが、そういう発想はなかったのだ。やがて技術の進化によって、サッカーのような競技でもデータを活用できる時代が到来する。

「2004年ごろにトラッキングシステムが導入されて一変した。僕が最初に選手の動きを可視化できるシステムを見たのは、イスラエルの企業のミサイル追尾システムを改良したものでした。今、Jリーグが使っているのは導入当時、スウェーデンのSAAB社の子会社だったTracabという会社が開発したシステムです。

プロ野球練習施設に設置されたトラックマン(トラッキングシステム)(写真:筆者撮影)

SAABは日本では車の会社だと思われていますが、海外では輸送トラックや飛行機を製造する会社で、飛行機のレーダーシステムをもとに作られたシステムです。トラッキングシステムの登場でスポーツにおける分析の状況は大きく変わりました。

これまで、試合で起きた事象をいわば手作業でデータ化していたものが、人の目では追えないものまで瞬時にデータ化することが可能な時代になったのです。そして、そこで得られるデータを解釈するためにサッカーの知識だけではなく、統計をはじめとするもっと本格的な『スポーツ分析の考え方』が必要になったんですね」

スポーツのデータ分析の普及を阻む壁

森本氏は、ここ10年の間に、日本のスポーツはデータ分析の分野で、欧米との決定的な差がついたと感じている。

「スポーツのデータを普及させる過程でいくつかの壁があったことは事実です。1つは権利の問題。データスタジアムがYahoo!で『プロ野球1球速報』を開始した当初、データの権利についての問い合せがありました。

改めて調査するとアメリカで、テレビなど誰でもアクセス可能な公衆のメディアから情報をとってデータ化した場合、データ化した人の権利だという判例が見つかりました。スポーツデータの活用は自由にできることになりましたが、日本ではまだ広がっていない。

もう1つは、多額なコストです。データ作成のためのシステム開発費および政策コストを回収するために、ある程度の金額で販売する必要がありました。しかし、イングランドのプレミアリーグは2014年にそれまでプロしか買えなかったデータを一般公開しました。

アメリカでもMLBは公式サイトで、データ解析ツール『スタットキャスト』のデータをすべて公開しています。アメリカはファンタシー・ゲームもあるので、データを活用する人が圧倒的に増えて、さまざまな人がデータを使って独自に解釈を広げ、その結果、さまざまな分析が行われ、魅力的なコンテンツ開発など、いろいろな可能性が広がっていったんです」

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