野球データ分析で日本がアメリカに抜かれた訳 「精神論」が幅を利かせる日本のスポーツ界

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森本氏は、データに関する日米の格差が、ビジネスだけでなくスポーツ教育、指導の格差にもつながっていると話す。

「欧州では上位の指導者ライセンスを取得するためには、レポートや論文を書く必要があります。例えばサッカーで3・5・2のシステムが機能的だという趣旨で書くとすれば、そのシステムがなぜ機能的なのかを論理的に示す必要があります。そのためには当然公開されたデータや独自に取得したデータ、その他多くの文献をもとに論考しないとできない。

欧米では選手に考えさせる前に指導者自身が考えるという習慣が出来上がっている。選手も“なぜ?”と日常的に指導者に尋ねるし、指導者もその答えを用意できている。

日本ではいまだに、指導者に『教えられる指導、教育』になっていて、ほとんどの人が指導者の考えを鵜呑みにしています。選手がわからないことがあるとき“なぜなのか?”確認するプロセスが抜けてしまっている。その差は大きいですね。

サッカークラブにデータ分析のシステムの販売に行った当時、多くの顔なじみの指導者から『森本どうしたんだよ、サッカーはこれ(胸叩いて)、ハート、ハートだよ』と言われたものです。残念ながら頭を指さす人はほとんどいませんでした」

日本と欧米の「差」とは、データ分析を活用する際の姿勢、考え方の差だと言える。森本氏が言う「アナリティックマインド」とはこのことだ。

データをいかに現場に落とし込むか

森本氏は、著作で、欧米のデータ開発者やアナリスト、現場の責任者、研究者にインタビューをしている。彼らが重視しているのは「新たなテクノロジーの開発」よりも、むしろ「データをいかに現場に落とし込むか」ということだ。どんなに優れたデータでも、指揮官や選手がそれを理解して活用することができなければ、価値はない。

「データに対する拒否反応は確かにあると思います。日本のスポーツは非認知能力(忍耐力・自己抑制・目標への情熱、社交性など人間が生きていくうえで必要とされる能力)をすごく評価しています。確かに非認知能力は重要です。

スポーツをするうえで“がんばること”は大事ですが、それだけじゃなくて、認知能力、そして自分で考えることがなければいけない。日本のスポーツ界は教えること、学ぶことを重視しすぎて“考えること”に関してはかなり軽視してきたと思います」

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