森本氏が社長の時代にデータスタジアムはビジネスモデルを大きく変えた。
「NPB球団にデータ分析のシステムを売ったのは、データスタジアムが初めてでした。でも、当時システムは売り切りだったので以後は儲からない。そこでデータだけでなく映像も組み合わせて、気になるデータのシーンをすぐに見ることができるシステムにバージョンアップしました。
その際に売り切りではなく月々いくらのASPモデル(ソフトウェアをネット経由で提供する形態)に変えました。でもプロ野球は12球団しかないから、それ以上は広がらない。野球のデータは1球ごとに取得してアーカイブされていく。その特性を利用して1球ごとに配信するコンテンツを開発しました。それがYahoo!Japanで多くのユーザーを集めた『プロ野球1球速報』です。
さらに2002年には、NHKがデジタル放送を普及させるためのプロモーションとして、実際の試合映像を見ながら『dボタン』でデータを見せるサービスを行うことになり開発しました。サービスをテストする最初の試合で、投手があまり見たことがない変化球を投げた。テレビで解説者は『スライダーですね』と言ったのですが、データスタジアムのデータ分析スタッフは『カットボール』と入力しました。
解説者と入力データが異なってしまい現場がざわついたのを覚えていますが、試合後の選手インタビューで『カットボールを今日初めて投げました』というコメントがありました。これで信用を得てそれ以降、多くのメディアでプロ野球中継の1球速報が使われるようになりました。当時はまだiモードでしたが携帯電話でも『プロ野球1球速報』は人気コンテンツになりました」
野球データ分析で日本がアメリカに抜かれた理由
この時期まで、野球データ分析の分野では、日本はアメリカをリードしていた。しかし以後、スポーツデータの分野はアメリカで飛躍的に成長する。1990年代に統計学の手法で野球を分析するセイバーメトリクス
「先にふれた“ファンタシー・スポーツ”が、インターネットの普及によってさらに流行したことが大きいですね。そして2011年にセイバーメトリクスでチームを強くしたオークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMを描いた映画『マネー・ボール』がヒットしたことで、一般の人がセイバーメトリクスに注目するようになったのも大きかった」
「ファンタシー・スポーツ」は、参加者1人ひとりがチームオーナーになって、実在する選手を獲得して自分のチームを作り、その選手たちの実際の成績に基づいて勝敗を争う。参加者は、リアルなスポーツの結果に一喜一憂することになる。1980年代にMLBからスタートしたが、インターネットの普及とともに大人気となり、他のスポーツにも波及した。MLBの公式サイトには、「Fantasy」というコーナーが設けられ、最新のデータが提供されている。
またアメリカには「FanGraphs」や「Baseball-Reference」などファンタシー・スポーツファン向けに巨大なスポーツデータサイトがいくつも開設されている。日本では何度もファンタシー・スポーツが紹介されたが、根付くことはなかった。この時期から、日本のスポーツ界はデータの分野では足踏みを続けていると言ってもいい。
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