「こんなときだからこそ、ウィーン・フィルのあの響きを聴いてほしい、なんとしても公演を実現させたいと思いました」
サントリーホール総支配人の折井雅子氏は述べる。
2020年11月、オーストリアに本拠を置く「ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」が来日し、満席の観客を前に全国8公演にわたる日本ツアーを行った。コロナ禍の中で、来日はなぜ、かなったのか。いかにして感染を防ぎながらコンサートの開催にこぎつけたのか。仮に、公演でコロナ感染者が出れば、社会的に批判されるのは確実だ。コロナ・リスクはまったくなかったのか――。逆境と困難を前に何をどうすればよいか。コロナ禍での公演から得られた教訓は、東京五輪・パラリンピック開催のヒントになるに違いない。
4半世紀にわたる信頼関係とサントリー本体の応援
むろん、公演の実現には、1999年以降、サントリーホールとウィーン・フィルとの4半世紀にわたる信頼関係と同時に、サントリー本体の応援があったのは間違いない。サントリーはもともと、2代目社長の佐治敬三氏以来、文化活動に力を注いできた。現在、その息子でサントリーホールディングス会長の佐治信忠氏もまた、文化活動に強い思い入れがあり、「公演がやれるように頑張れ」とスタッフを激励した。
「ギリギリのタイミングでしたね」
サントリーホール副支配人兼・企画・広報統括部長の白川英伸氏は振り返る。
サントリーホールがWeb上で公演開催決定のリリースを発表したのは、同年10月30日で、公演の6日前だった。チケットはすでに4月末に売り出されていた。コロナ禍による海外アーティストの入国制限が続く中で、公演は開催できるのだろうかと、音楽関係者、音楽ファンはやきもきした。とてもムリだろうと考える人が多かった。
「ウィーン・フィルは自主運営のオーケストラで、いわゆる“雇われ”ではありません。ですから、彼らは“演奏したい”という気持ちからスタートし、そのためになにができるかを自分たちで考え、話し合ってきました。4日に一度、メンバー全員の新型コロナウイルス検査を行うなど感染症対策をしながら、公演を安全に実施するための準備を進めていました。検査の実施は彼ら自身が決めたことです。周りから検査をしろといわれたわけではありません」(白川氏)
とはいえ、ウィーン・フィルが万全の感染防止対策をとったとしても、コロナ禍に海外のオーケストラを呼ぶのは簡単ではない。
現に、今回ウィーン・フィルは、日本、中国、韓国、台湾をまわるアジアツアーも計画していたが、中国、韓国、台湾の3カ国は、コロナ禍での公演はむずかしいとキャンセルされていた。
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