ウィーン・フィル「奇跡の日本公演」緊迫の舞台裏 コロナ禍に来日、全国8公演をどうやりきったか

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コロナ禍の厳戒態勢の中、いよいよウィーン・フィル一行の来日が迫った。ところが来日直前、2つの事件が起きた。

1つは、出発する前日の現地時間の11月3日、ウィーン中心部のオペラハウス付近で爆発事件が起きたのだ。一報を聞いた白川氏の口をついて出たのは、「大丈夫か」という言葉だった。背筋が凍る思いがしたと振り返る。

幸い、一行は翌日のフライトに備えて、前日からホテルに自主隔離をしており、全員が無事だった。

もう1つは出発前日。ヴィオラ奏者に無症状ながらPCR検査で陽性が発覚したのだ。濃厚接触者を含めた5人がツアーメンバーから除外され、急遽、バイオリンの予備メンバー2人がヴィオラ奏者として補充された。

国際線定員215人の「ボーイング787-9」が、105人からなる一行を乗せて福岡国際空港に降り立ったのは、2020年11月4日午前9時である。

2020年11月4日午後、福岡空港に到着したウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の楽団員たち(写真:共同通信)

到着機に放水シャワーが浴びせられた

福岡国際空港にとっては、ウィーンからのフライトを迎えるのは初めてだ。ANA職員、空港職員のそれぞれが最大限の歓迎の気持ちをあらわした。到着駐機場ではANA職員が「WELCOME TO FUKUOKA」と書かれた横断幕を持って迎えた。

加えて、2台の消防放水車による“放水シャワー”が浴びせられ、歓迎ムードを盛り上げた。

到着機には放水シャワーが浴びせられた(写真:サントリーホール)

「われわれは、世界中を旅して公演して歩いているが、乗降機が“シャワー”を浴びたのは初めてだ」と、団員たちは驚いたという。

一行が福岡国際空港から出られたのは、3時間以上たってからだった。福岡国際空港で出迎えた白川氏は、ジリジリした。105人全員が機内で抗体検査をし、全員の陰性が確認できるまで空港内で待機させられたからだった。

一行は、北九州、大阪、川崎、東京での11日間の8公演におよぶ全国縦断ツアーに出発した。これまでの海外公演では、メンバーには空き時間に外食をしたり、観光を楽しんだりというオフの楽しみがあった。が、そうした楽しみも今回はすべてなしとした。メンバーは、日本にいる友人に会うこともかなわなかった。サントリーホールは、そんな彼らを気遣った。東京公演では、ブルーローズ(小ホール)を食堂に仕立てて、ホールのスタッフが“にわか店長”になって、お弁当やデリバリーピザ、お総菜を提供した。密を避けるため、座席はスクール形式に配置され、メンバーは前を向いて着席した。

「まるで小学校の給食の光景を見るようで、なんともほほ笑ましく思いました」

と、折井氏は言う。

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