「スキルの蓄積」を重視しない中国が払うツケ 「量」で考える中国人と付き合うには?

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──変わらないことはリスク?

中国人は変化に価値を置いている。同じ仕事を長くやって専門性が高まることを、日本人は強みと考えるが、中国人はそれしかできない、つまりリスクと考える。だから、スキルが向上すると不安が頭をもたげる。周りを見渡して、あっちのほうが儲かりそう、評価が高そうというものが見つかると、みんなが群がる。結果、勤続年数、企業の寿命が異常に短くなる。

職人はより稼げるところへ行く

──スキルの蓄積という点で、磁器の名産地、景徳鎮と有田の差は象徴的でした。

田中信彦(たなか のぶひこ)/1983年早稲田大学政治経済学部卒業。90年代から中国での人事マネジメント分野で執筆、コンサルティング活動に従事。リクルート、ユニクロなどの中国事業に参画。著書に『ぼくの上海行商紀行』『中国で成功する人事 失敗する人事』など(撮影:今井康一)

今でも生産量は景徳鎮(けいとくちん)市のほうが多いが、汎用品ばかりで、中国内のほかの産地にも抜かれている。景徳鎮では作る人も売る人も外から来ていて、地元の人は窯や建屋を作って働きに来た人に貸す。有田と違い家業ではないので、設備も汎用的なものとなり、付加価値の高いものは生まれない。

職人たちも景徳鎮でなくてはいけない理由はないので、より効率的に稼げるところがあればよそに行く。これでは地域に産業は根付かない。土地という観点からすると、深圳(しんせん)市などの経済特区も同じモデルだ。

──ある時点では効率的、合理的でも、長期でそうとはいえません。

中国と日本では時間軸の違いがすごく大きい。短い時間軸での思考は、歴史的に培われた習慣のようなもので、すぐには変わらないと思うが、中国人経営者の中には長い時間軸で考えられる人も出てきたと強く感じる。

──なぜ今なのでしょう。

改革開放が本格化したのは、天安門事件の制裁解除後、1992年くらいから。ファーウェイやアリババなど今の大企業は1980年代後半からの10年間くらいに創業している。40歳代後半から50歳代になった創業者は20年以上、市場経済で経験を積んだ。

今、その市場が変わっている。豊かになればいいものが欲しくなるし、海外の情報も入ってくる。環境規制も加わり、安く作って大量に売れば儲かるということはなくなった。よそと差別化できないと危ない、と考える人が増えている。レベルの高いものを作るには時間がかかる。勉強して、スキルやノウハウを蓄積する必要がある。当たり前の話だけど、今のままでは一流にはなれないと気がついて初めて、自分の問題と認識できた。

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