ピアノ演奏に残された「飛躍的な進化」の余地

「身体の使い方」が進化のカギを握っている

ーー身体の使い方が、その鍵を握るわけですね。

古屋:若いピアニストを見ていると、ものすごく音楽的に才能があるにもかかわらず、身体の使い方が適切でないと思われる方が時折見られます。そのせいで表現できないことがたくさんあり、場合によっては痛みが出ることもあります。その理由は本人も気がついていない指の使い方の問題だったりします。ところが、手全体のシステムを最適化することによって、今までできなかったことが一瞬でできるようになったりするのです。

時間をかけた反復練習ではまったくできなかったことが、わずか5分でできるようになります。練習量で超えられなかった壁がテクノロジーの力によって一瞬で超えられる。それを実現していくのが僕の研究です。そういった事例をいくつも見ていますし、当の本人たちもびっくりします。

いくらやってもできなかったことが、ここをこうすればできるようになる。それを教えてあげられるのがテクノロジーなのでしょう。それを目の当たりにした瞬間は僕自身も震えますね。そしてそれらの動きをすべて制御しているのが脳なのです。意識するということがスタートです。

スポーツ科学の世界では、体幹の強化や合理的な練習方法、さらには食事の研究などによって、より良い成果を上げる研究が進んでいて、実際に結果も伴っています。ところが、演奏の世界においてはまったく手付かずです。“演奏科学”という言葉も僕が作ったものですしね(笑)。

音楽を最適化するか、身体を最適化するか

――身体の問題を取り除けば、練習時間の大半を表現の練習につぎ込めます。その考え方が実践できれば、確かにピアニストのレベルは飛躍的に向上しますね。

古屋:同じようなことは、過去の大ピアニストたちの映像を見ても感じます。身体の使い方という意味では、アルトゥール・ルービンシュタインがいちばんきれいです。座っている姿勢からして違います。

一方、グレン・グールドの弾き姿にはいろいろ思うところがあります。彼は手首の神経症に悩まされていたわけです。もしグールドにアドバイスする機会が持てたとしたら、ずっと良くなっていたと思います。身体の使い方があんなに悪いのにあそこまでの演奏ができているのですから、もっとすごいことができたと思います。

姿勢の悪さも極めつきですが、彼はあの姿勢でなければ弾けないのかもしれません。そこを無理やり矯正するのは難しい問題です。悩ましいのは、悪い姿勢なのにすごくいい音が出ましたということや、姿勢を矯正して身体の痛みはなくなったけれど、いい音が出なくなってしまったという場合です。そうしたときにどっちを取るかというのはとても難しい問題です。音楽を最適化するか、身体を最適化するかですね。

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