ピアノ演奏に残された「飛躍的な進化」の余地 「身体の使い方」が進化のカギを握っている

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古屋晋一(ふるや しんいち)/ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー、上智大学 特任准教授、ハノーファー音楽演劇大学 客員教授、京都市立芸術大学・東京音楽大学・エリザベト音楽大学 講師。大阪大学基礎工学部、人間科学研究科を経て、医学系研究科にて博士(医学)を取得。ミネソタ大学 神経科学部、ハノーファー音楽演劇大学 音楽生理学・音楽家医学研究所、上智大学にて勤務した後、現職。研究の主な受賞歴に、ドイツ研究振興会(DFG)ハイゼンベルク・フェローシップ、フンボルト財団ポストドクトラル・フェローシップ、文部科学省 卓越研究員など。演奏上の主な受賞歴に、日本クラシック音楽コンクール全国大会入選、KOBE国際音楽コンクール入賞など。主な著書に『ピアニストの脳を科学する』、訳書に『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』。Neuropiano(写真:ソニーCSL)

――極めて明確な目標ですね。ではいったい、今何が起きていて、何が問題となっているのでしょうか。

古屋:ジストニアに関しては、国内はもとより海外からの問い合わせもかなり多く、しかも本人がそれを隠したがる傾向があります。ピアニストから「この指がおかしいのですが、何の曲だったら弾けますか」というような問い合わせに対して「この曲はだめ、この曲もだめ。この症状だったらこの曲にしておきなさい」といったアドバイスを行いますが、医者ではないので治療はしません。

治療を並行して行うことを前提に、2カ月後に予定されるコンサートのために症状が出ない方法を考えます。しかしこれは対策であって根源的な対処ではありません。

僕が学んだハノーファーの音大には学内にクリニックがあります。音楽家のための専門外来ですね。ドイツでは続々と増えてきていて、今ではほぼすべての音大にあります。生徒たちの健康維持が目的ですが、そのための授業(音楽生理学)もあって、学部生のうちは必修です。

そこでは、どんな練習の仕方をしたらどうなるとか、あがり症の人はどんなメンタルトレーニングをしたらいいのか。さらには、手が痛いという友達に、どのようなアドバイスをしたらよいかという試験問題もあります。

予防が大事

――すばらしい試みですね。日本にも同じようなシステムがあるといいのですが。

古屋:音楽家の場合は予防が大事なのです。そのための教育が大事で治療ではないのです。なぜかというと、練習をして痛みが出て、腱鞘炎の手術をしなければならなくなる。手術をして治ったとしても同じ弾き方をしていると再び腱鞘炎になる。その繰り返しです。

治療というのは対症療法。根治するためには根から絶たなければならないのです。それが僕のやっている“身体教育”です。“後手”に回らないためにちゃんと教育しなければならない。医者に行った時点ですでに後手に回っているのです。アメリカはこの分野においてヨーロッパより進んでいます。

僕が学んだハノーファーが進んでいるのは医学、つまり治療なので“後手”なのです。アメリカは予防の教育が進んでいます。つまり“先手”です。各音大で、演奏における身体の使い方や姿勢などをしっかりと教えてくれます。ところがドイツでは、体系的に姿勢を教える機会は限られています。

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