私たちにとって最も身近な楽器といえばピアノだろう。白と黒に塗り分けられた鍵盤は、一目見ただけで音楽をイメージさせる力があり、鍵盤を叩けば音が出るシンプルな構造は、誰にでも音楽の楽しさを体験させてくれる。そのピアノが、カーレースの最高峰F1にも例えられるような戦いを繰り広げていることをご存じだろうか。
昨年2015年はピアノ界及びピアノメーカーにとっては大変な年だった。音楽コンクールの最高峰に位置づけられるショパン国際ピアノコンクール(ポーランド・ワルシャワで5年に1度)とチャイコフスキー国際コンクール(ロシア・モスクワで4年に1度)が同じ年に開催されたからだ。スポーツに例えると、オリンピックとワールドカップが同じ年に開催されるようなこの事態は、ファンにとってわくわくする出来事だが、コンテスタントやピアノメーカーにとっては尋常ならざる事態だったと言える。
コンクールのピアノはF1マシン
特にピアノメーカーにとっては、自社製品の素晴らしさを世に知らしめるために、“F1マシン”であるところのピアノを最高の状態に仕立て上げ、最高の“ピットクルー”たる調律師を送りこむ手筈を整えて備えることになる。そのあたりの状況は、先日NHK-BSで放送された『もうひとつのショパンコンクール~ピアノ調律師たちの闘い~』でも詳しく紹介されたのでご覧になった方も多いのではないだろうか。彼らの目的は、1人でも多くのコンテスタントに自社ピアノを使ってもらうこと。そして自社ピアノを使ったコンテスタントを優勝させることが究極のミッションとなる。
過去のコンクールを振り返ってみると、スタインウェイの圧倒的強さが目を引く。スタインウェイとは、1853年にアメリカ合衆国のニューヨークに設立されたピアノ・メーカーで、オーストリアのベーゼンドルファー、ドイツのベヒシュタインと並んで、“世界三大ピアノ”の1つに数えられる。
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