ニューヨークのほかドイツのハンブルクにも拠点を持ち、スタインウェイ・ジャパンが日本に持ち込む正規輸入品の全てがハンブルク製のため、その名前と相まってドイツのピアノのように思われがちだが、そのルーツはニューヨーク。ニューヨークに出かけた際にはカーネギーホールのすぐそばにあるスタインウェイのショールームを訪れるのも一興だ。世界最高峰の工芸製品の聖地を目の当たりにするのは得難い体験に違いない。
さて、話はそれたが、そのスタインウェイのコンクールでの強さは、私たちが日ごろ体験しているコンサートの場にも反映されている。世界の主要コンサートホールで使われるピアノのなんと98%がスタインウェイという驚きの事実だ。コンクール等を通じて積み上げられたピアニストたちからの信頼に基づくもので、演奏需要の多いピアノをコンサートホールが用意するという、重要と供給の流れから生み出された結果だ。そこで、改めてコンクールの位置づけがクローズアップされる。
コンクールにおいて、コンテスタントたちは自らが弾くピアノを選ぶ権利を持っている。前述のNHK-BSのスペシャル番組の中でも、コンテスタントたちのピアノ選びのシーンが紹介されていたが、その姿はまさに真剣そのもの。まるでF1ドライバーが自らドライヴするマシンをチェックする姿のようだ。現代のコンクールにおいては、前述のスタインウェイのほか、日本の老舗メーカーであるヤマハとカワイ、そこにイタリアの新興メーカー、ファツィオリを加えた4つのピアノメーカーが覇を競う状況となっている(コンクールによって参加メーカーは変動)。
6人のうち5人がファツィオリを選択
ここ数年のコンクールを見渡した中で、極めて印象的な出来事として記憶に残るのが、2014年に行われたルービンシュタイン・コンクールだ。20世紀を代表する大ピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインの名を冠したこのコンクールは、イスラエルのテルアビブを舞台に3年に1度開催される若手ピアニストの登竜門。参加したピアノ・メーカーは、スタインウェイとファツィオリの2社のみ。ここで事件が起きた。スタインウェイの圧勝と思われたが、最終審査に選ばれた6人のうち5人がファツィオリのピアノでファイナルに臨むことを選択したのだ。
このニュースはすぐに世界中に配信され、ピアノファンの間で大きな話題となった。これまでのコンクールでは、ほとんどのファイナリストがスタインウェイを選択するケースが多く、他のメーカーはいかにして食い込むかが最重要課題だっただけに、この結果は驚き以外の何物でもない。
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