しかもファイナル以前のステージでスタインウェイを演奏していたコンテスタントの中にもファイナルではファツィオリを選択したケースがあり、驚きに拍車をかけた状況となった。ではなぜファツィオリが選ばれたのか、その理由についてコンテスタントに取材したレポートがあるので興味がある人はそちらを読んでほしい。
コンテスタントの言葉を総括すると、「今回の会場の大きさと課題曲を考えるとスタインウェイよりもファツィオリの方が有利に思えた」というもので、冷静な判断が垣間見えるものだった。単なるブランド至上主義を超えた点と、スタインウェイの牙城に肉薄するレベルに到達してきたファツィオリの勢いがうかがえる。
さて、そのファツィオリについて触れておきたい。1981年に現社長であるパウロ・ファツィオリによって創業されたファツィオリは、古い歴史を持つ伝統的なピアノ・メーカーの中にあって、創業者が現存する新興ピアノ・メーカーだ。最新テクノロジーの助けもあったとはいえ、よくぞこの短期間にこれほどのピアノを作り上げたとの驚きを禁じえない。
まるでフェラーリやランボルギーニのような
製品ラインナップは高級グランド・ピアノに限定されていて、手作業によって作り上げられるピアノの価格は世界で最も高額とされている(日本での販売価格はスタインウェイに横並びの戦略価格で、最高機種はともに2000万円超)。こう書くと、何やらイタリアのスーパーカー・メーカーのあり方によく似ているように思えてくる。
そう、ファツィオリはクルマに例えてみると、超高級車しか手掛けないフェラーリやランボルギーニのような存在なのだ。となると、スタインウェイはポルシェかメルセデス。こちらは超高級車から、庶民にも何とか手が届くような製品までを手掛ける点が共通項。何しろスタインウェイにはかなり高価ではあるがアップライト・ピアノが存在するほか、カワイとのタイアップで生産されるボストンや、さらに低価格なエセックスといったラインナップも用意されている。このあたりも、最近のポルシェやメルセデスの展開に似ているような。
そしてヤマハはといえば、レクサスのような高級ブランドから庶民の足として活躍するクルマまでも扱うトヨタに相当するように考えるのは自然の流れだろう。老舗のピアノ・メーカーであるベーゼンドルファーやベヒシュタインも、個性的かつ素敵なピアノを指名するピアニストたちの存在によってコンサートで脚光を浴びている。もう一つの日本のメーカーであるカワイも、前社長の名を冠した高級ピアノ(Shigeru Kawai)を世に送り出すことによって再びその存在感を高めている。
クルマもピアノも、メーカーは製品を通じて消費者にメッセージを送り、消費者はそのメッセージを敏感に受け取っている。そのあたりの状況については、また機会を改めてお届けしよう。
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