私たちは「専業主婦前提社会」に苦しんでいる なぜ「専業」も「共働き」もきついのか?

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シンガポールでは、さまざまな多国籍夫婦に出会った。シンガポーリアン夫妻、あるいは夫婦の片方がシンガポール人という国際結婚夫婦。はたまた、2人とも第三国出身でシンガポールに住んでいる夫妻。そして欧米などから来た駐在夫婦。

彼らは、共働き家庭であれ専業主婦家庭であれ、住み込みメイドや掃除を中心としたパートのヘルパーを気軽に使っている。食事は必ずしも自炊にこだわらずに屋台(ホーカー)など活用することも多い。日本で見てきた家族よりもしなやかで余裕を持っているように見える。

一方で、シンガポールに来ている日本人の駐在家族たち。私は日本にいた頃はあまり専業主婦たちと交流がなかったのだが、駐在妻としてある意味初めて専業主婦コミュニティにどっぶり漬かることになった。そこで目の当たりにしたのは、日本にいるときよりも時に更に強化されているのではないかとも思える、その家族への献身ぶりだ。この"高水準すぎる"専業主婦力が、逆に日本の母親たちの苦しみの元凶なのではないかと思った。

シンガポールでメイドを雇っている家族にインタビューをすると、メイドには掃除・洗濯・料理などを中心に任せており、育児・教育面は親の責任として手元に残している夫婦も多い。国自体が狭くて祖父母が近距離に住んでいるので、メイドを雇いながら、祖父母が孫の世話を手伝っていることもある。

それと比べたときの、日本人の母親の荷の重さといったら。日々の育児など母親自身の役割のほかに、メイドと祖父母、さらに不在がちな父親の分も含めて、自分プラス2~3人くらいの無償労働をしているように見える。外で働いている兼業主婦となると、もはや4人分くらいの仕事量だ。

シンガポール政府は、外国人家事労働者を受け入れ、シンガポール人や永住権を持つ人たちに高付加価値の仕事をしてもらおうとしている。逆にメイドを雇いたくなければ仕事と育児の両立を成り立たせるのにはそれなりに苦労するという話も聞くのだが、国としてその選択肢を担保している。

これに対して、日本の場合は、都心部では保育施設にすら入れない状況だ。基本的に社会全体が専業主婦家庭を前提に設計された時のままになっていて、共働きが増えていく状況に対応できていない。

そして親たち自身のマインドセットもしかりだ。縦、つまり自分の親世代と比べたり、横、つまり隣の専業主婦家庭と比べたりして、その人たちが達成してきたことを同じマインドで違う状況下で全部やろうとしているように見える。これは、どう考えても無理だ。

ハイパー時短スキルをめきめきと上げて無理ゲーをクリアしちゃう猛者がまれにいるから、頑張ればできるような気になってしまうこともあるけど、それがスタンダードには絶対になりえない。

社会の前提が違いすぎる

もちろんメイド文化がすべてを解決するわけではないし、日本でも外国人家事労働者を受け入れる経済特区ができて試行錯誤が始まっているが、住み込みメイド文化が輸入されるとは思えない。

シンガポールも少子化は日本よりも激しいし(結婚しない男女が増えている)、ワークライフバランスの問題はたびたび新聞やネットで取り上げられることがある。教育の競争が激しく、親たちが躍起になって塾に行かせたり家庭教師をつけたりするなど、社会の課題はもちろんいろいろある。

でも、シンガポールで出会う家庭は、日本の共働き家庭ほどバタバタしていないように見える。街を歩けば皆子連れに優しく、「こりゃ子ども産みたくなくなりもするわ」と思う東京の殺伐とした環境とはだいぶ違う。
少なくとも、「すみません、すみません」と謝りながら電車にベビーカーを乗せたり、必死の形相で電動自転車の前と後ろに子どもを乗せ、真冬の寒空だろうが、真夏の灼熱だろうが、雨だろうが雪だろうが、18時ごろに猛スピードで家に向かう必要は、ないのだ。

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