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これまでと変わった台湾の軍事演習。都市を舞台に地下鉄、バス、学校、通勤路など日常空間が戦場になる現実を突きつけた

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※本記事は2025年7月26日7:00まで無料会員は全文をご覧いただけます。それ以降は有料会員限定となります。
台湾の軍事演習で展開されたミサイル防衛システム「パトリオット」
アメリカから調達した防空システム「パトリオット」が政経中枢のある台北市に展開された(写真:Getty Images)

2025年7月、台湾全土で実施された「漢光41号」演習は、従来の軍事演習とは一風変わった光景が目に入ってきた。訓練の舞台は、これまで主戦場としてきた沿岸部や人気の少ない郊外だけではない。大都市の地下鉄、夜市、市場、橋梁、そして学校のグラウンドなどへと広がる。兵士たちが銃を構え、装甲車が道路を封鎖し、住民たちが避難誘導を受ける。そのような光景が10日間にわたり、現実の都市空間で繰り広げられた。

台湾最大規模の実動軍事演習「漢光」といえば、長年、中国のミサイル攻撃から始まり、防空部隊制圧、渡海侵攻、着上陸戦闘の流れで毎年5日間にわたって行われる。だが、今年は中国の武力侵攻にいたらないグレーゾーンから始まり、期間は10日間と倍に延びた。今回の演習が私たちに突きつけるのは、都市が戦場になるとは、人々の生活、企業活動、社会基盤に深刻な影響を及ぼすという現実だ。

日常がある都市空間で繰り広げられる防衛作戦

演習開始から6日目となる7月15日、台北市萬華区の萬板大橋では、真夜中から早朝にかけて市街地防衛訓練が実施された。敵がすでに上陸して台北に向けて進軍しているという想定の下、「橋梁守備」と「拠点群戦闘」の訓練が行われた。

この橋に憲兵部隊が展開し、台湾が設計した陸軍の主力装甲車・雲豹やアメリカのHESCO社製の防護壁、拒馬(鉄条網)を設置。空砲の銃撃音が響き、煙幕が橋を覆った。普段は通勤の要所であるこの橋が、突如「最前線」に変貌した。

同日朝には、地下鉄の龍山寺駅から善導寺駅にかけて、地下鉄を活用した兵員輸送演習も行われた。100人超の兵士が小銃や携帯ミサイルを装備し、駅構内を制圧しながら進む様子は、まさに通勤ルートが作戦ルートになる瞬間だった。

さらに、台湾の北西部から台北の中心部へとつながる淡水河では、機雷の敷設訓練が実施され、台北市への敵の遡上を阻止する想定だということが説明された。これは、戦時において、河川物流や上下水道といった都市インフラが影響を受けるという警鐘でもある。

こうした訓練は単なる演出ではない。台湾で軍事関連書籍の出版を手掛ける區肇威氏は、「台北の博愛特区(日本の霞が関や赤坂に相当)でこうした演習が実施されたことは、兵士だけでなく市民にとっても市街地戦の現実を突きつけるものだった」と語る。つまり、戦場は市民の生活圏の「遠く」にあるのではなく、「自宅の周りが戦場になる」という感覚が台湾社会に浸透し始めている。

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