私たちは「専業主婦前提社会」に苦しんでいる なぜ「専業」も「共働き」もきついのか?

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それは一つひとつを取れば、スクールバスがあるからとか、長時間労働に対する意識が違うからなどという理由で説明がつくのだが、全体を見渡したときに、やはり、すべてにおいて共働きが前提になっている社会なのか、専業主婦前提の社会なのかという違いがあると思う。そして、日本は、まだまだ後者なのだ。共働き世帯が専業主婦世帯数を追い抜いてから、すでに20年以上経っているのにもかかわらず。

ここ数年で、子育て世代の仕事と家事育児をめぐる状況は、かつてに比べれば大きく前進した。2012年末に第2次安倍政権が誕生し、女性活躍をうたい始めた。「女性活躍」と言いつつ一部の大企業で働く女性しか念頭に置いていないという批判や、女性に働けと言いながら産むことも育てることも求めているといった悲鳴もあった。またしだいに方針は「一億総活躍」「働き方改革」へとシフトしていく。

それでも、この間女性活躍推進法などもあり、企業における女性の活躍にさまざまな注目が集まったことは間違いない。女性活躍関係本の出版、シンポジウムなどが活況で、私もたまたま2014年に『育休世代のジレンマ』を上梓し、その波に乗った一員だった。女性活躍、働き方改革の号令で、働く母親たちもかなり市民権を得はじめた感覚はある。在宅勤務なども従来に比べたら広まってきたのではないか。

それでもなお、ワーキングマザー界で、相変わらず議論が続いているのが、家事・育児の分担問題だ。職場環境が多少ながら改善されても、家庭での葛藤はなかなかなくならない。「ワンオペ育児」がキーワードになり、夫との育児の分担問題は相も変わらずネット上をにぎわせ続けている。働き方が多少変わっても、家事・育児問題が残るかぎり、たぶん男女対等の活躍はない。

シンガポールに来て、専業主婦の友人がたくさんできて、彼女たちが実際のところ、おぼろげながら直面している将来不安も身近に感じるようになった。「働いてみる選択肢はないの?」と聞いたときに、山のように出てくる「できない理由」は、夫の稼ぎがあるから言えることではあるものの、一部はそれなりに説得力のあるものだったりもする。専業主婦前提社会は、彼女たちが働くきっかけを失い続ける悪循環にもつながっている。

皆でもっと楽になろう

私が新聞記者をしていた2014年の時点で、育休世代以上が仕事と育児の両立に悲鳴を上げる中で、女性の中には早慶などのハイランク大学を出ても総合職よりも一般職を目指したいという人たちが出てきていた。若い人の専業主婦志向が取りざたされ、「丁寧な生活」の波はたびたび思い出したように世の中に押し寄せては引いていく。

いや、手作りも丁寧な生活もできる人はいいけれど、その水準に引きずられなくていい。専業主婦前提のさまざまな仕組みは、もう少し時間があれば働きたいと考えている専業主婦の選択の幅を狭め、それにより経済的自立も家事の外注化も妨げ、専業主婦をも苦しめているだろう。そろそろ社会もマインドもバージョンアップしないといけないのではないか。

ワーキングマザーも、専業主婦も、もっと楽になってほしい。本来は、ぱっきりとカテゴライズできるようなものではなく、私たちは主婦である側面も働く女性である側面も同時に持ち合わせているし、時期によって柔軟に行き来することができたら、もっとそのカテゴリーはあいまいになる。
さまざまなプレッシャーを感じてイライラしている男性たちだって、稼ぎ主規範から解き放たれたら、もっと楽になるはずだ。この連載では、そのために何から考えていけばいいのか、ひとつずつ取り上げていきたいと思う。

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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