先日、「衆知経営」について講演をしたところ、講演後の質疑応答で、ある中堅企業の社長が次のようなお悩みを打ち明けました。
「社員に提案を持ってくるように話をしていますが、採用できないものばかり。結局は実施しません。そのため、『社長に言っても、なにもやらない。もう言うのをやめよう』という雰囲気になってきております。どうしたらいいでしょうか」
「衆知経営」とは、松下幸之助さんの経営手法の1つ。小学校4年生のときに学校を中退。無学と言えば言いすぎかもしれませんが、松下さんは、そのような自分を隠そうとはしませんでした。それどころか、自分は学校を出ていないから、知識はない。なにも知らない。なにも知らないなら、知っている人に尋ねていこう、そうすれば、多くの知識、知恵が集まってくる。もっといえば自分のように無学の者に、知識ある人、知恵ある人は教えてくれるべきだ、とまで考えていたかもしれません。いずれにしろ、およそ、松下さんほど、多くの人に多くのことを尋ね、学んだ人はいないように思います。
恐る恐る経営をしていた
多くの人にものを聞く態度は、経営者になっても変わることはありませんでした。むしろ、さらに多くの人に聞くようになりました。それはそうでしょう。一個人であれば自分の興味だけの問いかけでよかったでしょうが、経営者ともなれば、取り組む幅は極端なほどに広がるからです。
経営について何も知らない松下さんは、経営者になって、恐る恐る経営をしていた、ともいえます。わからないこと、戸惑うこと、迷いがあるたびに、悩みながら、多くの人に尋ねながら経営をしていくことになります。
そのことが、会社の発展に大きく役に立ったのです。尋ねれば、人はいろいろと教えてくれる。意見を言ってくれる。悩みを言えば、大抵の人が助言をしてくれる。もちろん、それら意見や助言は玉石混淆、しかし、さまざまな意見、助言も、素直に聞いていけば、おのずと「正解」が得られると悟るのです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら