スタートアップに8年もかかった理由
それだけではない。それ以上に重要なのは、モノとカネが交換されるという、“従来の資本主義”のやり方とは異なったおカネのやり取りを可能にしたことだ。ここで金は、「共鳴」「共感」「支援」「クリエイティビティ」という、目に見えないもののために使われるのである。
2001年にアイデアを思いついたものの、実際にキックスターターのサイトが立ち上がるまでは、8年という長い歳月を要した。アイデアさえあれば、次の日からでもサイトを運営し始めるシリコンバレーの昨今のスタートアップとは大違いだ。
長い時間がかかった理由は、チェンがアーティストで、テクノロジーのバックグラウンドがなかったこと、そして単に金儲けの手段としてサイトを作ろうとしなかったことである。
チェンは、ミュージシャンとして活動していた時期に、それで食っていけないだけでなく、仲間や音楽好きのコミュニティから孤立しているのを痛感していたという。だから、このサイトはアーティストが何かをクリエイトする際に、互いを助け合うようなコミュニティと通じ合えるような場所として想定していた。
アーティスト側も必ずしも儲けたいという意図のためではなく、生み出したいものが形になるのを可能にしてくれる、そんな“仲間”を見つけられる場所としてである。
チェンは、8年の間に少しずつ目標に近づいていく。最初は、共同創設となったヤンシー・ストリックラーに出会ったことだった。ストリックラーは音楽ジャーナリストで、2人はすぐに黒板を買ってブレーンストーミングを始めた。
次に会ったのはデザイナーのチャールズ・アドラー。アドラーはサイトの仕組みを一緒に作り上げていった。この3人がキックスターターの共同創設者である。親しい友人たちから少額の資金援助を得始めたのもその頃だ。
実際のプログラミングでは、間違った人材を雇ってしまったりもしたが、後にCTOになる人物と知り合ったことで、キックスターターは実現に向けて大きく前進を遂げる。そして、2009年4月にようやくサイトが始まったのである。その後は少しずつ、さらにその後はどんどん、活動資金を求めるプロジェクトがキックスターターのサイトにアップされ続けた。
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