新進の映画作家がデビューする舞台として知られる、米国サンダンス・フィルムフェスティバル。その今年の出展作品の10%は、「人々」によって制作資金を得たものだった。
そして、その人々の仲介をしたのがキックスターターという企業だ。つまり、それらの映画作品はハリウッドの映画スタジオでもなく、ニューヨークのプロデューサーでもなく、あるいはどこかの太っ腹の投資家でもない、ごく普通の人々が資金を提供して成り立ったもの。キックスターターは、その人々の窓口になったのだ。
ペリー・チェンは、キックスターターの共同創設者であり、人々の共鳴によってカネを動かす「クラウドファンディング」という新しい仕組みを考え出した人物。今年36歳。近年、日本でも静かなブームとなっているクラウドファンディングの“元祖”ともいえるのが、このチェンである。
無名アーティストならではの発想
彼は、おカネのないアーティストがコンサートを開いたり、映画やアートの制作をしたりするための資金を、一般の人々から集められればどんなにいいだろうと考えた。2001年のことだった。
きっかけは、チェン自身がジャズ・フェスティバルを開催しようとしたこと。資金がないために開催できなかったからだ。
ミュージシャンでもあるチェンは、当時、ニューオリンズの住人。ジャズ・フェスティバルを開くのにぴったりの場所も見つけたのだが、実際にそのホールの管理会社に問い合わせてみると、あまりに利用料金が高くて、とても自分には手が届かなかった。
そのとき、チェンは思った。「観客として来てくれそうな人々が、先にチケットの料金を払ってくれるような仕組みがあればよかったのに」。それで十分な資金が確保できればフェスティバルが開かれ、もし集まらなければ、残念だけれどもショーはなし。そういうものを、インターネット上の仕組みとして考えられないものだろうか。
そのアイデアが、これまでに5億7500万ドル(約563億円)もの資金を仲介するまでのサイトになったのである。
これまでサポートしたプロジェクトはレコード制作、コンサート開催などの音楽、映画、パフォーマンスなどのアート関連、そしてプロダクト制作やデザイン、食品関連など3万9000件。実に390万人もの一般の人々が、自分の財布から資金を提供した。
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