宮下:電解質であれば味に関係なく変化があります。たとえば、酢豚を食べると酸味も旨味も引きあがり、よりはっきりとした味になります。
この実験以外でも、舌に金属を当てて電気を通しながら、いろいろな食材を食べてみました。舌に金属を直接当てると食べ物の風味は損なわれるので、どうすれば美味しく感じるのか、種類によって違いがあるのかを、あらゆる食材で片っ端から試していきました。フォアグラやフグの刺身といった、いわゆる珍味も食べてみましたね。
窪田:電気を通すことで、どんな変化がありましたか?
宮下:いろいろ試した結果、魚肉ソーセージが美味しく食べられることが分かりました(笑)。こうした実験も、研究の面白さの1つですよね。
減塩食でもしっかり味を感じる「エレキソルトスプーン」
窪田:私の知り合いが「エレキソルトスプーン」を試したことがあるのですが、薄味のラーメンを食べた時に味がはっきりして驚いたと言っていました。商品化するまでは大変だったのでは?

宮下:エレキソルトスプーンは、キリンホールディングスとの共同開発なのですが、「電気味覚」を使った私たちの研究内容を知り、声をかけていただきました。キリンホールディングスではもともと減塩食やヘルスサイエンスについて研究をされていたので、その文脈から「電気味覚を利用して減塩食でも味をしっかり感じられるような食器を作ろう」と話が進みました。キリンホールディングスには、「健康のために減塩食が大切なのは分かるけれど、美味しくないのでなかなか続けられない」という方からの声が届いていたそうです。
商品化でキリンホールディングスが苦労されたのは、おそらくコストと量産ではないかと思います。私たちが作ったプロトタイプは数十万円かけて作っていて、電源装置にコンセントを差し込んだままの状態で使っていたので、持ち運びにも不便でした。利便性の高い商品にするため、ポータブルなものにして、価格を下げる努力をされたのだと思います。
窪田:1つ作ることならできても、量産となると難しいですよね。