「ラーメンの神様」に弟子入り《東池袋大勝軒の味を守る男》の凄さ―“自己流”の限界を突破するのに有効な“弟子入り”という学び方

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山岸さんの味を守るという大方針があるので、例えば値付けにも迷いがない。山岸さんのレシピは一部公開されているが、他のラーメン店が真似をしないのは原材料が高価すぎるというハードルがある。おのずと売り値も高くせざるを得ないのだ。

「うちのスタッフは全員が社会保険に加入しています。給料も上げていかなければなりません。マスターの味とボリュームを変えない代わりに、価格を上げました。『ラーメン1000円の壁』と言われますが、うちは4年ほど前に突破しています」

お店は「カフェのよう」

ラーメンの神様が泣き虫だった僕に教えてくれたなによりも大切なこと 「お茶の水、大勝軒」田内川真介の変えない勇気
『ラーメンの神様が泣き虫だった僕に教えてくれたなによりも大切なこと』(文藝春秋)。ラーメンの話ではなく、師弟や家族、仲間との信頼関係の尊さを描いたノンフィクションです。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

一方で、店のあり方は時代の流れを汲んで新しくしている。本店である「お茶の水、大勝軒」は2024年のリニューアルオープン後はゆったりめの33席で、一般的なラーメン店の2倍は席数がある。清掃が行き届いたカフェのような空間。田内川さんはいわゆる行列店ではなく、女性一人でも入りやすい店づくりを心掛けているのだ。

味を守るために、赤字ではなかった関東地方の3店舗を閉めて、本店1店舗に集約。それでも2025年は増収増益を見込んでいる。志賀高原の山ノ内大勝軒のほうはすでに絶好調で、スキーシーズンになると1日に700杯も売れることがあるという。

職場の人間関係が希薄になったと言われて久しい。「仕事に必要な技術や知識は、勤務時間内の研修制度で学ぶか、資格の勉強や社会人大学院などで身に付ける」という風潮が強まっているように感じる。しかし、すぐに役立ちそうなスキルだけを取り出した学びは浅いもので、顧客を感動させ続けることはできないのではないか。

北尾さんと田内川さんの話を聞いていると、「本当の仕事とは人の生き方と考え方そのものの発露」だと思えてくる。少しでも成長して良きものを生み出すためには、師匠という太い指針が必要なのだ。

師匠の技術だけでなく人となりを敬愛し、一緒にいられる時間を心底楽しみながら、自分らしさなんて消すぐらいの姿勢ですべてを吸収しようとすること。それが学びを深くして、迷いにくくし、長期的な意味での成功へと導いてくれる。

フリーランサーや事業家だけの話ではない。むしろ、組織で働く会社員こそ人生のロールモデルを見つけるべきだと思う。直属の上司である必要はなく、取引先や同業他社、年下の同僚にだって尊敬すべき人はいるはずだ。職場で師匠を見つけよう。今からでも決して遅くない。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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