美しいものは、なぜ美しいのか…「軽度認知障害」とともに生きる山本學が気づいた【観察の効能】
父に仕込まれた「ものをきちんと見ること」
山本 僕の父は建築の設計という仕事柄、独特の美意識を持つ人でした。そのためか、僕は幼い頃から、「人間として生きていくには、ものをきちんと見ることだよ。すべてのことは、そこから始まるんだ」と、繰り返し言われてきました。
作家の司馬遼太郎さんも同じことをおっしゃっています。
朝田 「もの」をちゃんと見て認識することが、初めの一歩だと。
山本 でも、ものを見ろと言われても、小学生だった僕は「いったい何が言いたいのかな」と困惑するしかありません。そんなある日、父が自分の飲んでいた湯吞み茶碗を僕に示して、「これ、どう思う?」と聞いてきました。
どう思う、と謎掛けみたいに言われたところで、何のことやらわかりません。困って、「これは父さんの湯吞み茶碗です」と答えたのだけど、父は何も言わず、「それじゃ駄目だ」とばかりに目で迫ってくる。
朝田 まさに、目は口ほどにものを言う、ですね。


















