僕が覚えた「足裏もみ」が大人になって役立った話 燃え殻「風呂場で思い出すのは若き日の父の姿」

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足裏マッサージ
僕はグイグイと彼女の足の裏を揉みながら、亡き祖母に最大限の感謝をしていた(写真:アオサン/PIXTA)
日常をやり過ごすために必要なのは、映画館の暗闇の中のような絶対的な安心感。ひとりの時間、寄り道と空想、たしかな名前の付いていないあれやこれや。作家・燃え殻が描く、疲れた夜にそっと寄り添う30篇とちょっとのエッセイ集『明けないで夜』より、父と祖母のこと。

一人間に戻るための儀式

友人は仕事から帰るとまず、気持ち良さそうに寝ている柴犬の腹に顔を埋めるらしい。柴犬も毎日のことなので慣れているのか、主人の気が済むまでジッと動かないでいてくれるんだと語っていた。それが友人の、劇団社会人から、一人間に戻る儀式だった。

僕がテレビの美術制作の現場で働いていたときは、帰るとまず、靴下を脱いで洗濯カゴに入れて、風呂場に直行した。デニムの裾をめくり上げ、熱めに設定したシャワーで膝から下、特に足の裏を中心に石鹼を使ってよく洗う。タオルでしっかり拭いて、そのあとに冷えた缶チューハイを冷蔵庫に取りに行って、「プシュ!」だ。これが僕の劇団社会人から、一人間に戻るための儀式だった。

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