日常をやり過ごすために必要なのは、映画館の暗闇の中のような絶対的な安心感。ひとりの時間、寄り道と空想、たしかな名前の付いていないあれやこれや。作家・燃え殻が描く、疲れた夜にそっと寄り添う30篇とちょっとのエッセイ集『明けないで夜』より、友人のこと。
恩を返すときがやっときた
知人のデザイナーの男性が半年前に心を病んでしまい、仕事を休職し、「もう本当に死にたい」という趣旨のメッセージを一通送ってきた。「とにかく少し休んでください」と僕は返したが、そのあともメッセージは何通も送られてくる。そして内容はどんどん変化していく。次第に、「お前がうらやましい」という内容になり、一番最近届いたものでは、「お前のことがムカつく」にまで行き着いてしまった。
一見、派手派手しい仕事に僕が就いているので、休職している彼からしたら、眩しく見えてしまったのかもしれない。実際のところ僕の仕事は、ひとりPC画面に向かって、ぶつぶつと言いながら、来る日も来る日もキーボードを打ちつづける仕事で、気づくと誰とも話さず一日が終わることもざらだ。前職はテレビの裏方だったので、とにかく会議や打ち合わせ、クライアントからの呼び出しなども含めて、いまよりもよっぽど派手派手しくいろいろな人に、日々会っていた。
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