美しいものは、なぜ美しいのか…「軽度認知障害」とともに生きる山本學が気づいた【観察の効能】
朝田 とはいえ、ステレオタイプのイメージだけで済ませていては、脳のほうもサボってしまいます。ものをよく見ること、丁寧に観察することで脳の回路が増え、衰えを防ぐことにつながりますから。
山本 先生は、「好奇心を持って日々の生活を送ってください」と、よくおっしゃいますが、それが脳の神経回路を増やすということなんですね。
たとえば、茶腕を見て美しいなと感じた。何が美しいのか、色が美しいのか、形が美しいのか。自分の観察と経験、つまりは知見の積み重ねで「このように美しいと思う」という価値観や概念が生まれてくる、それが好奇心を持てということの意味なんだと。
朝田 そのとおりです。
軽度認知障害になって気づいた「好奇心」の持ち方
山本 観察することで、そこから言葉が生まれ、創造が生まれる。役者に必要なリアルな世界観は、ものを見ることから始まることを、僕は父親から教わりました。
でも、昨今ではリアリズムはあまり必要とされていなくてね。軽く笑わせるセンスと、テンポの良さばかりが求められる。だからこそ、ステレオタイプな演技が重宝されるんです。
朝田 漫画的とでもいいますか、わかりやすくしてしまうんですね。
山本 でも、朝田先生のお話で、それじゃ脳は育たないということがわかりました。
時代が変わったなと思うのは、漫画が浸透して、ドラマや映画の原作にもなり、リアリズムよりも、誇張してわかりやすく描くのが主流になってしまったことです。その結果、いったん抽象化して、再構築しながら役をつくっていくプロセスが省かれてしまっているんですよ。
たとえば「真面目な人」という役柄を表現すると、出てくるのはしかめっ面で、振る舞いがきちっとしていて、いつも腕組みしてるっていうステレオタイプの人物像なんです。
朝田 お陽様はマルで描く、星は五芒星を一筆描きで描く、そのままですね。逆に、そうでなければ理解されない恐れまである。
山本 軽度認知障害が進行するなかで気づいたのは、好奇心や関心を持つということは、美しいものを美しいと単純に口にするのではなくて、何で美しいんだろうと考え、観察し、そこを具体的に深掘りしていくことなんだと。それが頭の体操にもなり、脳の衰えをゆるやかにしてくれるんですね。


















