今後10年間でイーロン・マスクが極めて困難な目標を達成した場合にテスラとして1兆ドル(約150兆円)もの報酬を与えるべきかどうかはさておき、今回テスラが提示した報酬案の土台には、「金銭的報酬の額と努力の規模は比例する」という発想がある。
金銭的なインセンティブが強力なのはいうまでもない。
だが、金銭がもたらす動機づけの効果は無限なのか。報酬が1000億ドル、あるいは10億ドルだったら、マスクは1兆ドルの報酬を与えられたときほどハードに働かなくなるのか。報酬が1ドルだったとしたらどうなるのか。
ノーベル経済学賞受賞者の指摘
人間は金銭によって最も強く動機づけられるという仮定は、ほとんどの政策やビジネス上の意思決定に組み込まれている経済学の基本的な公理だ。そうした仮定が、上がり続ける役員報酬、キャピタルゲイン税の引き下げなどの論拠になっている。
とはいえ経済学や心理学の研究は、金銭とそれ以外の報酬が努力に与える影響について、はるかに複雑な姿を描き出している。
ノーベル経済学賞を共同受賞したマサチューセッツ工科大学(MIT)教授のエステル・デュフロとアビジット・バナジーによると、金銭的なインセンティブの効果は誇張されることが多い。
リッチなビジネスパーソンは、「自分たちは経済を支える大黒柱であり、その私たちが去ればすべてが崩壊する」と考えるのが好きだ、とバナジーは指摘する。
「こうした考え方はとくに富裕層にとって非常に魅力的で、彼らは手当たり次第にこのようなことを口にするが、それを裏付ける根拠はあまりないと思われる」



















