「ラーメンの神様」に弟子入り《東池袋大勝軒の味を守る男》の凄さ―“自己流”の限界を突破するのに有効な“弟子入り”という学び方

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ラーメンブームを牽引する存在として「ラーメンの神様」と呼ばれた山岸さんの弟子は数百人もいて、大勝軒を名乗るラーメン店は全国各地にある。しかし、東池袋大勝軒の代名詞だったつけ麺の「特製もりそば」や「中華そば」の味を、材料をまったく変えずに忠実に再現しているのは田内川さんの「お茶の水、大勝軒」(2006年開業)のみ。

餃子やシュウマイ、カレー中華などかつて東池袋大勝軒で提供していたメニューも復刻して提供している。

さらに、田内川さんは「いつか故郷の人たちにも俺のラーメンを食べてもらえたら」という山岸さんの遺志を継いで、師匠の故郷である長野県山ノ内町にも「山ノ内大勝軒」を2019年に開業した。ここまでくると師事を通り越して信仰とも言える。

なぜ“師弟の物語”に惹かれたのか?

一方の北尾さんは「町中華探検隊」を2014年に結成し、同志たちと手分けをして個人経営の大衆中華料理店を訪問し続けている。大がかりな遊びとも言えるが、『夕陽に赤い町中華』(集英社インターナショナル)などを発表しているので書き手としての仕事にもなっている。

古本や狩猟など、個人的な興味を執筆テーマへと育てることが北尾さんのスタイルなので、町中華探検隊の流れで大勝軒と田内川さんと出会ったのはわかる。でも、山岸さんと彼を主人公にして一冊の本にしたいとまで思ったのはなぜだろうか。

「もともと僕はそれほどラーメン好きじゃない。だから、ラーメンやつけ麺への興味が理由ではないよ。田内川くんとは『丸長のれん会』で会ったけれど、店には何年も行かなかった。大勝軒はラーメン屋で町中華ではない、と思っていたからね」

東京・神保町にある喫茶店で、電子タバコを吸いながらいつものようにくだけた口調で北尾さんは話し始めた。丸長のれん会とは、1948年に東京・荻窪で開業した「丸長」の流れをくむ飲食店のゆるやかなネットワーク。なお、町中華界の一大勢力だという丸長の「長」は、創業者の青木勝治さんが長野県出身であることに由来する。

「田内川くんの大勝軒には餃子やカレーもあるから町中華だよ、と仲間に言われて食べに行ったのが2018年。つけ麺ではなく冷やし中華を食べた記憶がある。美味しかったから、それからは普通に客として通うようになった」

お茶の水、大勝軒
特製もりそば(1100円)。つけ麺の考案者である山岸一雄さんの味を忠実に再現しているそうです。鰹だしと甘酸っぱさと辛みを同時に感じるスープは唯一無二。普通盛りでもこの麵の量でお腹いっぱいになりました(筆者撮影)
お茶の水、大勝軒
「神田カレーグランプリ」で2017年に優勝を果たした「復刻版カツライスカレー」(1400円)。普通のカレーライスを注文してしまったところ、厨房のベテランスタッフが臨機応変にカツを追加で揚げてくれました。300円でこの大きさ!(筆者撮影)
お茶の水、大勝軒
山岸さんの味を変えないことを主眼とする「お茶の水、大勝軒」には田内川さんのオリジナルメニューは2つしかありません。1つは、神田カレーグランプリでマイスター賞を受賞した「スパイシードライキーマ」。もう1つはこの「大勝軒のまかない飯」(500円)。チャーシューが炒めてあって香ばしく、財布にも優しいのでご飯党の筆者はリピート必須。追加200円で中盛り、250円で大盛りにしてもらえます(筆者撮影)
次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事