
「なぜ仕事では誰よりも話せる自分が、娘とは10年も会話ができなかったのだろうか……」
ある営業部長(50代)は顧客を増やし続け、30人以上の部下を束ねる敏腕マネジャーだ。若い頃から話し方教室に通い、プレゼンテーションやコミュニケーションの技術を磨いてきた。
しかし、21歳になる娘とは、彼女が11歳のときからまともに口を聞けていないという。原因は10年前の妻の死と、その後の対応にあった。
今回は、話し方のテクニックが逆効果になる瞬間と、本当に必要な「対話の本質」について解説する。
「10年間の沈黙」の正体
部長と大学生の娘は、同じ家で暮らしながら挨拶もほとんど交わさない。2歳下の息子が“緩衝材”となり、かろうじて家族の体裁を保っていた。娘との関係性が悪くなったきっかけは10年前、妻が急な病で亡くなったことだ。
当時、部長は海外出張中だった。不運にも台風で飛行機が飛ばず、帰国できたのは葬儀の翌日。
娘の深い悲しみを前に、部長はどうしていいかわからなかった。そのため、仕事で培った話し方のテクニックで接しようとした。
それが悲劇の始まりだったのだ。
当然だが、娘は父を恨んでいなかった。ただ、だんだん父の顔をまともに見なくなった。会話も自ずとなくなっていった。
部長には輝かしいキャリアがあった。顧客を増やし続け、いつの間にか部下も30人以上に増えていた。組織の統制もうまくいっていた。それもこれも若い頃から話し方教室に通って、コミュニケーション技術を磨いてきたからだ。
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