だからこそ、娘との関係修復にもテクニックに頼った。
話し方のプロに相談し、コーチングのテクニックも磨いた。2年かけて資格まで取得し、質問話法を学んだ。その間、ずっと娘に質問してきた。
「最近、どんなことを考えているの?」
「学校は楽しいか? どんな課題を抱えているの?」
「もし志望の大学に入れたとしたら、何がしたい?」
しかし、娘は返事をしなかった。「時間があるときに、お父さんと話をしよう」と言っても、睨まれるだけだった。
やればやるほどうまくいかなかった。エクセルで作った資料を使って、今後の人生計画などを示し、進路について話し合おうともした。自分がどれぐらい娘の将来を考えているかを知ってもらいたかった。大学卒業後の選択肢についても話し合いたかった。
それでも口を閉ざす娘に、ついに言ってしまった。
「今のお前を見たら、お母さんはどう思う? 絶対に悲しんでるぞ」
高校2年生の頃だった。この一言が2人の関係を決定的に悪くした。
私の新刊『わかりやすさよりも大切な話し方』にも書いたが、人のタイプは7種類に分けられる。この分類で言えば、部長の娘は、いわゆる「アンチ不燃人」だった。
アンチ不燃人とは、何を言っても、どう言っても、まったく火がつかない人のことだ。ビジネスにおいての「アンチ不燃人」は、チームやリーダーへの不信感を抱いている可能性が高い。そのせいで協力的な姿勢をまるで見せない。
たとえば、過去に努力したのに周りから評価されず、失望した記憶が心の奥に残っていたり、誰かに裏切られた経験から、感情の壁を築いてしまったのだ。
ただ、勘違いしてはいけない。アンチ不燃人は最初からそのような姿勢ではなかった、ということだ。職場においてもよくある。モンスター社員は入社したときからモンスターだったかというと、そうではない。何かのきっかけで変化してしまったのだ。
部長の娘も同じだった。母親を失った悲しみと、そのときに父親がそばにいなかった孤独。そして、その後の父親からの一方的なアプローチ。これらが積み重なって、心を完全に閉ざしてしまったのだ。
10年ぶりの会話はなぜ生まれたか
月日は流れ、息子から「姉の就職先が決まった」と聞いた。
部長は娘にお祝いの言葉をかけたいと思った。21歳になり、娘の態度も徐々に変わっているように見えた。しかし、話すきっかけがない。以前のように話し方のテクニックを使うことは、もうできなかった。
そんなとき、息子が「彼女を連れてくる」と言った。週末、息子とその彼女、部長と娘の4人で食卓を囲むことになった。気まずい沈黙を予想していたが、息子の彼女は天真爛漫な女性で、自然に会話の輪が生まれた。
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