加一を誇らしく思った出来事もある。
あるとき、マグロが苦手な友人が店に来た。その友人は、回転寿司で美味しくないマグロを食べてしまってから、一切口にしていないという。その友人に、ペペさんは「騙されたと思って」とマグロの握りを出した。おそるおそる口にした友人は驚いた表情。
「『全然味が違う、美味しい!』って言ってくれたんです。好き嫌いを克服しただけでなく、それからマグロにハマってくれて。すごくうれしかったですね。バイトでも、そこまで好きではなかったけど、まかないのマグロ丼を食べて好きになった、という人もいました」
ペペさんの提案で、お店で流す音楽も変更した。以前は旅館で流れているような和のBGMだったが、ペペさんにとってあまり心地よくない。ヒップホップを流したい、という提案は却下されたものの、家族は「R&Bだったらいいよ」と寛容な返事。
それからは店内に流れるR&Bを聴いて、「うわ、これ新曲じゃん!」「超いい!」とノリノリになって働くようになったのだった。

包丁を握るようになった「事件」
そんな加一で2023年、事件が起きた。2代目である祖父が、心筋梗塞や脳梗塞を相次いで発症したのだ。無事に退院はしたものの、車いすでの生活を余儀なくされることに。失語症にもなってしまった。それまでは祖父と父親が厨房を切り盛りしていたが、また包丁を握ることは難しい。父親が3代目となり、ペペさんも一緒に調理を担うようになったのだった。
祖父は根っからの職人気質で、人に技術を教えるのも、包丁を握らせるのも嫌がる性分。ところが、ペペさんが料理人として修業を始めるのを見て、とてもうれしそうにしていたのが印象的だったとペペさんは目を細める。
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