20代で「漁師を束ねる"ボス"」になった彼女の半生 なぜ魚を知らない素人が漁業の世界へ入ったのか
月給3万円で漁業の未来を担う
坪内さんは20歳で大学を中退し、結婚を機に山口県萩市へ移住。子どもを授かったものの、23歳で別居しシングルマザーになった。子育てと両立するために選んだのは、得意の英語力を生かした翻訳業。
あるとき観光協会の依頼で請け負った翻訳の仕事が縁で、旅館の経営者から改革を一緒にやってくれないかと頼まれた。「やらせていただけるなら」と引き受け、仲居さんの指導にあたっていたとき、旅館の宴席に出席していた萩大島の漁師、長岡秀洋さんと出会った。
萩大島は萩市の沖合8kmにある島で、人口約600人。ほとんどの島民が漁業に携わる漁師の島で、主に7〜8隻の船で船団を組み、巻き網漁を行っている。長岡さんは松原水産という船団の漁労長で、漁の指揮をとる現場監督のような人だった。
漁獲量の減少、消費者の魚離れ、燃料代の高騰など、漁業は苦境に立たされている。萩大島も例外ではなく、危機感を持った長岡さんは何とかして打開策を見いだそうとしていた。しかし自分たちだけではパソコンを使えず、何をしていいかもわからない。
そこで偶然知り合った坪内さんに、一緒に生き残り策を考えてほしいと頼んだのだった。最初の約束は、月給3万円。半ば強引に頼まれたが、坪内さんは不思議と断る気持ちにはならなかったという。
「子どもに自分はどんな背中を見せられるだろうかとずっと考えていて……。まったく見ず知らずの業界だけれど、本気で島の漁業を変えたいと思っている彼らと一緒に挑戦すれば、私でも何かを残せるかもしれないとワクワクしました」
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