「男性公務員→女性釣り師」に転身した驚きの半生 50歳にして大阪の漁港で「遊漁船」のオーナーに

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
昨年5月、自身の遊漁船を購入し、一般向けツアーをスタートしたプロ釣り師の田中亜衣さん(写真:田中さん提供)
この記事の画像を見る(5枚)

人生を変えた1日

2011年4月1日は、田中亜衣にとってその後の人生を左右する1日だった。それまでの40年で、1歩、1歩、足を踏み出すたびにここまで自分を奮い立たせたことはなかった。

朝、いつもより早く起き、しっかりとメイクをして、ジャケットを羽織り、スカートをはいて、ハイヒールで職場に向かった。通勤電車の窓から職場が見えたとき、「あかん……無理かもしれん」と、足がすくんだ。それでもなんとか職場のビルまでたどり着き、エレベーターホールに向かう。

朝の通勤時間帯には珍しく、1人でエレベーターに乗った。「ほかに誰もいなくてよかった……」とホッとした直後に、「あとでシワ寄せが来るから、ここで誰かと会っとったらよかったんちゃう?」とおびえた。気持ちが千々に乱れたまま数秒を過ごし、エレベーターが止まる。うずくまりたくなるほど、心臓が激しく胸を叩く。

しかし、ゆっくりと扉が開く間に、田中は笑顔を作った。そして職場の同僚たちに、明るく、声を張って「おはようございます!」と声をかけた。それはまるで、初めての舞台を前に楽屋で震えていた新人女優が、満員の観客に向けて最初のセリフを口にした瞬間のようだった。

同僚たちの多くは、田中の姿を見てハッと驚きの表情を浮かべた。それでも、田中が恐れていたほどあからさまに眉をひそめたり、好奇の視線を向けたりしてくる人はいなかった。あらかじめ上司に相談していたから、同僚にも周知されていたのだろう。みな、温かい雰囲気で「おはようございます」と返してくれた。

次ページ釣り師としての顔
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事