「男性公務員→女性釣り師」に転身した驚きの半生 50歳にして大阪の漁港で「遊漁船」のオーナーに
2008年以降、プライベートでは女性として生きるようになった田中にとって、最後の関門は職場だった。田中をよく知る身近な人たちと違い、職場でどういう反応をされるのか予想がつかず、公表すべきか、隠し通すべきか、悩みに悩んだ。その間にも髪を伸ばし、女性のような髪型にしていたら、「なんなん?」と突っ込まれるようになり、いよいよ腹をくくる。
病院で性同一性障害の診断書を得た田中は2011年のある日、職場の上司にすべてを話し、「どう思います?」と尋ねた。すると、「え……」と言葉に詰まりつつも「それやったらその方向で行くしかないやん」と冷静に認めてくれた。
次は人事部にいた顔見知りの上司に話した。その上司は慌てた様子で「それは先例がないから、どうしたらいいかわからない。法律的にもいろいろあるだろうし、調べてみる」と言われた。
職場の男性陣は明らかに戸惑っていたが…
法律的には、トランスジェンダーが自認する性に従って働くことになんの問題もない。ただ、そのまま同じ職場で男性職員がいきなり女性になるのもなんだからと、4月1日付で異動の辞令が出た。そうして迎えた出社初日が、冒頭につながる。
「どうやって行こう?って悩んだし、怖かったですね。でも、やるんやったらバーンと変わっていって、なにか文句ある?という雰囲気で行こうと思いました。足が震えましたけど」
田中が意識したのは、堂々と振る舞うことだけではなかった。
「人に認めてもらうために、まずは怖がられないところから始めようって。そのためには、コミュニケーション。積極的にしゃべって、おかしな人じゃないことをアピールしていこうと思いました」
初日、職場の男性陣は明らかに戸惑っていた。しかし女性陣はむしろ田中の変化を喜ぶかのように、距離を縮めてくれた。その和気あいあいとした雰囲気が男性陣にも伝わり、もともと顔見知りだった男性と言葉を交わすようになると、「やっぱりなにも変わらへんよな、そりゃそうやな」と言われたそう。それから間もなくして、全員と違和感なく話せるようになった。
田中にとって、2008年からの3年間は激動の転換期だった。それで釣りどころではなかったのだが、ある日、地元の後輩に釣りに誘われたことで、風向きが変わった。
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