ヨシダナギが1000万円を投じた「意外な被写体」 アフリカ少数民族の撮影で有名になったが…
2019年6月、初夏のパリ。ドラァグクイーンの撮影に臨んでいたヨシダナギは、現れたモデルを見て、息をのんだ。ミュージカル『キャッツ』のようなメイクをしたミニュイという名のドラァグクイーンは、ひげを生やし、衣装から胸毛と腕毛がのぞいていたからだ。
それまでに撮影したクイーンたちは、みな「毛」を処理するか、隠して見えないようにしていた。そのため、ヨシダナギは「撮影した後に、毛を消してあげたほうがいいのかな、消すの大変だな」と感じたという。
このドラァグクイーン・シリーズでは、新しい試みとして、ヨシダナギがモデルとなるクイーンたちにインタビューをして、その動画も写真集に同封することにしていた。この日も、撮影に入る前にミニュイとのインタビューが行われた。そのときに、謎が解けた。
撮影対象を少数民族からドラァグクイーンへ
「いちばん訴えたいのは“したいことを、好きな時、好きな場所でしてもいい”ってこと。本来の自分でいてよくて、誰もが自由に生きていいわけ。女装しながらひげを生やして、胸毛を出している私のような存在でもね。だから問いかけてるの。『見て、私ができるならあなたにも(なんでも)できるのよ!』って。そんなメッセージとして、これ(毛)を残しているの」
「かっこいい!」。ミニュイの言葉を聞いた瞬間、ヨシダナギの胸が熱くなった。同時に、ずっとモヤモヤしていた心がスーッと軽くなるのを感じた。
「世界の辺境に生きる少数民族を撮影する写真家・ヨシダナギ」としてメディアに取り上げられ、評価されるようになってから、いつしか期待される役柄を演じているような気がしていた。
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