ヨシダナギが1000万円を投じた「意外な被写体」 アフリカ少数民族の撮影で有名になったが…

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ところで、ドラァグクイーンとは何者なのか? 検索すると、「ゲイカルチャー発祥」で「派手に着飾った女装の男性によるパフォーマンス」などの言葉に行き当たる。

まず重要なのは、「ドラッグクイーン」と書き表されることもあるため、ドラッグ=薬物という誤解を招いてしまうこと。英語表記は「drag queen」で、薬物を表すdrugではない。「drag」は「引きずる」という意味があり、ゴージャスなドレスやガウンを引きずって歩く姿を指すという説や、「dress as a girl」の略語だという説など諸説あるそうだ。

ヨシダナギもニューヨークに渡る前にひと通りのことは調べはしたが、上辺だけの情報しか集められていないような気がした。その程度の知識で知ったかぶりをしてもボロが出るし、失礼にあたる。そこで、「すべてを正直に話して、彼女たちから教えてもらおう」というスタンスで、クイーンたちとのインタビューと撮影に臨んだ。すると、クイーンたちは快く受け入れてくれた。

「よくわからないから教えてと言ったら、勉強してきなさいよって怒られちゃうかなと思ったけど、そんなことは一切なかったですね。彼女たちに見せられる私の実績も少数民族の写真しかなかったんですが、自分たちに目を向けてくれたことがうれしいし、あんたの写真、超いいじゃんって言ってくれて。そのときに、この人たちは思った以上に自由ですごく器が大きい人たちなんじゃないかと感じて、引き込まれました」

実は、現地ではトラブルの連続だった。インスタでアポを取っていたクイーンたちの前日、当日のキャンセルが続発。どうしたものかと困り果てていたら、撮影に応じてくれたクイーンたちが、自分の友人を紹介してくれた。撮影場所もなかなか決まらなかったが、クイーンたちのツテで確保した。

これまでにないプレッシャー

ニューヨークで撮影した6人の中には、ショーに出演し、プロのドラァグクイーンとして生計を立てている人も多かった。撮影のために昼間のニューヨークを歩いていると、街ゆく人が立ち止まり、「昼間にクイーンがいるなんて!」と写真を撮る。すると、クイーンたちは「あなた、ラッキーね」とポーズをとる。

そのやり取りは自然かつ好意的なもので、ニューヨークでは、「ドラァグクイーン」が受け入れられ、地位が確立されているように感じたという。

写真集の中では、メイク中の写真も掲載されているステラさん(撮影:ヨシダナギ)

しかし、インタビューをしてみると、半数が壮絶な人生を歩んできたことがわかった。非常に厳格な家で育ち、ゲイであることを長年カミングアウトできず、「自分の将来は宣教師になるか、ドラッグ(薬物)に溺れるかの2択しかないと思い込んでいた」というステラに、「あなたにとってドラァグクイーンとは?」と聞いたときに返ってきた答えは、「ジェンダーファック(性別なんてクソ食らえ)」だった。

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