ヨシダナギが1000万円を投じた「意外な被写体」

アフリカ少数民族の撮影で有名になったが…

その中で印象的だったのは、アフリカからの移民のノマイ。厳格なイスラム教徒の家の出で、ヨーロッパに来てから初めて自分を表現することができた。

自分のルーツを忘れないために、衣装にルーツを表すものを必ず1つは入れるノマイさん(撮影:ヨシダナギ)

「だから、ココで戦っているの。(同じような出自によって)まだ不可能だと思っている人たちの道をつくるためにも。もし私がこうしていることで、どこかの子ども1人に少しでも夢を与えたり、この人ができるのなら僕もできるかもって思わせることができるかもしれない」

そして、ニューヨークで感じていた迷いと不安を見事に吹き飛ばしてくれたのが、冒頭に記したミニュイだった。

インタビューを重ねながら、ヨシダナギはこう考えるようになった。

「彼女たちは、ドラァグクイーンだから魅力的なんじゃない。1人の人間として魅力的で、だから美しい。その美しい子が、ドラァグクイーンをやっているんだ。私は、彼女たちが発するメッセージの懸け橋になりたい」

ドラァグクイーンとは何か?

この思いは、新作を制作するうえで大きな支えになっていた。実は、当初この新作の制作費として確保していた300万円はニューヨークで使い果たしていた。パリ滞在中も、移動費、宿泊費、食費、謝礼や場所代で飛ぶようにお金が飛んでいった。

前述したように、新作の制作はすべて自費。当然のように「ヤバい……」という感覚はあったが、ニューヨークとパリで撮影に協力してくれたクイーンたちの強い言葉と、内面からあふれ出す美しさ、誇り高きたたずまいを広く世に伝えたいという思いが勝ったのだ。結果的に、投じた資金は1000万円に達した。これは、「いつか会いたい人が見つかったときに、すぐに新しいプロジェクトを動かせるように」とコッソリ貯めていたお金だった。

腹をくくり、体当たりしたこの撮影によって、ドラァグクイーンとは何か?という問いに対する自分なりの答えも出た。

「撮影前、私は自分が『ドラァグクイーンとはゲイの男性が女装をしてパフォーマンスをするエンターテイナーであり、カルチャー』というような答えを出すのかなと思っていたんです。

でも最終的には、肌の色や宗教やジェンダーを全部取っ払って、“自分の好きなもの、なりたいものになることがドラァグクイーンなんだ”、もっと自由でいいんだと感じました。私もドラァグクイーンになれるんだって思いながら、パリから帰ってきましたね」

『DRAG QUEEN -No Light, No Queen-』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

帰国後、印刷に出した写真を見た彼女は、驚きながら安堵した。

「あれ、ちゃんと私の写真っぽい」

キミノ氏やキュレーターなど周囲の人たちからも「どう見てもヨシダナギの世界だね」と言われて、うれしさよりもホッとした。新型コロナウイルスの影響でアメリカの6人にはまだ郵送できていないが、フランスで撮影した12人に作品集とそれぞれの写真を送ったら、全員から同じ答えが返ってきた。

「あんたの写真、すんごくいい!」

5月25日に発売された『DRAG QUEEN -No Light, No Queen-』で、新境地を開いたヨシダナギ。今はまだコロナ禍で自由に移動できないが、18人との再会、そして新たなクイーンたちとの出会いを心待ちにしている。

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