「男性公務員→女性釣り師」に転身した驚きの半生 50歳にして大阪の漁港で「遊漁船」のオーナーに
後輩は田中を全面的に受け入れ、「俺、これからねえさんって呼ぶわ」と言った。釣り場では、田中を見て物珍しそうに近寄ってくる人たちに対して、「なんやなんや!」とすごみをきかせて、守ってくれた。安心できる環境で久しぶりの釣りを楽しんだら、釣りの関係者といっさい連絡を絶つという不義理をしたことをふと思い出して、胸が痛んだ。
「妻も、家族も、友人も、職場でも大丈夫だったんだから、きっと大丈夫。また釣りをしよう」
3年ぶりの再会
思い切って、よく利用していた明石の漁船に連絡を取り、3年ぶりの釣りに出かけた。すると、船長やほかの常連たちは風の噂で田中の変化を耳にしていたようで、「ええやん! そのまま釣りしたらええやん」と歓迎してくれた。
ここで、運命の針が動く。田中の知り合いで、以前、一緒にジャッカルのテスターをしていたプロアングラーの遊漁船がたまたま近くにいた。そこで、漁船の船長が電話をかけて田中が乗船していることを話した。久しぶりに顔を合わせると、そのアングラーは「ええやん! ええやん!」と再会を喜び、ジャッカルに伝えた。
すぐにジャッカルから連絡があり、後日、加藤会長、小野社長らと会うことになった。2人は、3年前にいきなり連絡がつかなくなったことを責めることもなく、女性になった田中を見て「いいね!」と褒めた。そして、その場で田中にオファーを出した。
「ジャッカルのプロデュースで、キャラが立っている人を集めて、ちょっと笑いを入れたゲーム性の高い釣り番組を撮ろうと思ってた、ちょうどよかったと言われて。ジャッカルと契約しているプロばかりが出る番組に抜擢されたんです」
番組は、タイラバでタイを釣るという内容だった。3年のブランクがあるとはいえ、先駆者だった田中にとって自分のフィールドだ。田中は職場で成功した「怖がられないためのコミュニケーション」を意識して、積極的に発言した。男性時代には口にしなかったようなこともあえてズバズバと言うと、それが喜ばれた。
初めて「田中亜衣」として出演したその番組は想像以上に好評で、それからケーブルテレビやユーチューブの釣り番組のオファーが急増した。経験豊富な田中が説得力のあるコメントをした後、「これで釣れる!」と商品を紹介すると、売り上げがグッと伸びた。
「私はおしゃべり好きなので、タイラバについて人に説明するのも楽しいんです。アイちゃんの番組はわかりやすいって言われるのがすごくうれしくて、もっともっとわかりやすく話したいと思うんですよね。そうしたら、たくさんの人が番組を見てくれるようになって、視聴者数や売り上げの数字も伸びるようになりました」
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