グルルルルル……。
耳元で重低音の唸り声が聞こえた。場所はブラジルの湿原地帯、深夜に仮眠を取っていたときのこと。ジャガーだ、と田中正人さん(57歳)は直感した。気温が高いのでテントも寝袋も使わず、草むらで寝ていたため、猛獣と自分をさえぎるものはない。
すぐそばで眠っている仲間たちも気がかりだったが、恐怖で身体が動かなかった。最初に逃げ出そうとした人が喰われるのだろうな、と思った。どれくらい時間が経ったのか、いつの間にか猛獣の気配は消えていた。
田中さんは仲間たちと無事をよろこんだが、その数分後には何事もなかったかのように、次のチェックポイントを目指して進んでいったのだった。
山賊の危険、排泄したら葉っぱで拭く
「大自然において、人間の存在意義は単なるエサでしかない、と感じさせられました。でも本来、野生動物ってそうですよね。普通に生活していて、危険を感じないのって人間くらいなんだなと。そんな経験をさせてしまうアドベンチャーレースってすごいです」
プロアドベンチャーレーサーの田中正人さんは、レース中に猛獣と遭遇したエピソードを笑顔で話す。
ほかにも、主催者から海賊や山賊に注意するようアナウンスがあったこと、空腹のあまりニンジンのヘタを拾って食べたメンバーのこと、不眠不休が続いて白目をむいたまま走っていたメンバーのこと、排泄はその辺でして葉っぱで拭くのが当たり前であることなど、冗談のようなエピソードが次々と語られる。
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