これらはすべて、世界一過酷な競技と呼ばれる「アドベンチャーレース」での出来事だ。
同レースは山、海、ジャングルなど大自然の中を、ランニング、自転車、カヤックなど複数種目で進むというもの。コースは整備されていないことがほとんどで、雪山や崖や洞窟などもある。総距離500キロ以上は当たり前で、ゴールするまでに1週間以上かかることも。チームは男女混合の複数人数で、必ず全員で行動しなくてはいけない。
あまりの過酷さに、出場した約50チームのうち、上位3チーム以外のすべてがリタイアしたこともあるほどだ。映画『アウトレイジ』の「全員悪人」というキャッチフレーズになぞらえるならば、主催者も出場者も「全員クレイジー」ではないか。実際、田中さんがレースにチャレンジする模様は、テレビ番組『クレイジージャーニー』で何度も取り上げられている。
田中さんはこのアドベンチャーレースの日本における第一人者である。178センチ、63キロ、体脂肪10%。還暦間近でありながら一線級のアスリートで、妥協なき厳しさゆえに「鬼軍曹」の異名を持つ。彼のアドベンチャーレーサー人生を取材した。
協調性のなさがネックに
自己中心的、自己主張が強い、協調性ゼロ。子どものころから田中さんはそんな性格だった。同級生との衝突は当たり前で、取っ組み合いに発展するのも日常茶飯事だった。クラス全員を敵に回したこともあったが、どこ吹く風。人からどう思われようとまったく気にならない、鋼のメンタルの持ち主である。
中学卒業後は高等専門学校(高専)に進み、友人に誘われてオリエンテーリング同好会に入部した。オリエンテーリングとは、山の中で地図とコンパスを頼りに、チェックポイントを通過してゴールを目指すというもの。宝さがしゲームみたいで面白そう、という軽い気持ちで始めたが、徐々にどっぷりハマっていった。
「走るだけじゃなくて頭も使うんです。走るのが早くてもコースを間違えるとタイムロスになるので、ゆっくり正確に走ったほうが早かったりします。走力や体力だけでは勝負がつかないところが奥深くて面白いなと」
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