松下幸之助の「感謝の心」は自然と伝わった

PHPが支払う給料にも心から感謝

松下は、事業の成功が自分の力、努力によるものであるとは、まったく考えていなかった。「今日、松下電器が一応の成功をしたのは、いい人がわしの周りに自然に集まってくれたから」と言うのが口ぐせであった。

感謝の思いは自然と伝わり、感動させる

「人は、松下さんは成功した、けっこうですなと言うてくれる。なぜに成功したんですかとよう尋ねられるけれども、どうして成功したのか、わしにもわからん(笑)。いい部下に恵まれたこと、ひいきにしてくださるお客さまがたくさんできたこと。そういうことやろうな。だから、今日のわしの成功は、部下とお客さまのおかげやな。成功の理由はそれやな。ありがたいことやとしみじみ思う」

そのような感謝の思いは、自然と社員に伝わる。社員を感動させる。

昭和53(1978)年は、松下電器が創業してちょうど60周年となる年であった。その1月10日、経営方針発表会が枚方にある松下電器の体育館で開かれた。約1万人の幹部社員が出席する中で、式は粛々と進められていた。松下の話そのものは、いつもに比べて長いものではなかった。結びは次のような言葉であった。

「60年といいますと、個人でいうと還暦であって、また元へ返って、一からやり直すということです。60年前、3人から始めて今日の姿にまでなったのであります。今日、また、もう一ぺん元へ返って、10万人から再出発するのであります。この次の60年には、私はおりませんでしょう。皆さんもおらんかもわからんけれども、とにかく発展したその巨大なる姿は、想像もつかんほどになると思うのです。そういう意味で私は、この60年間にこれだけの仕事をしてくださった皆さんに、心からお礼を申しあげたい」

そう言うと松下は、檀上を降りはじめた。その時、突然に拍手は一段と大きくなり、幹部社員のなかには涙を流す者もいるという、異様な雰囲気になった。

松下は、檀上から降りてきたが、途中で立ち止まると、会場の約1万人の社員に向かって深々と3回頭を下げたのである。一人の老創業者が、今日、会社の発展あるは、ひとえに社員の皆さんのおかげだと、頭を下げていたのだった。

松下はそれでもなお、自分には感謝の心がまだ足りないと考えていた。あるとき、会社の幹部を前に話し始めたときの結論もやはり、もっと素直になって感謝の心を持たなければいけないということであった。

「昨晩、もっともっと自分は感謝報恩の念に徹しないといかんと、そう思ったんや。これからは不平不満が出てきたら、感謝報恩に徹しよう、徹する努力をしよう。その努力を始める今日が第一日であると。これからは皆さんに会っても誰に会っても、感謝報恩の念で頭を下げようと思う。ぼくがそうでないときは皆さん、あきまへんと言って注意してください」

こう話したのは、松下が83歳の8月であった。

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