前回ご紹介した、グーグルなどの企業からNGO、刑務所の収監者に至るまでさまざまな人々や団体にストーリーテリングを教えるドーン・フレイザーさんのワークショップでも、このストーリーアーチが教えられている。筆者が参加したアクティングスクールのクラスでも、ストーリーの基本構造として教えを受けた。
この構造をもとに、役者たちは、シーンはどのように設定されているか、どこでストーリーが盛り上がっていき、どこがクライマックスなのか、などといった緻密なスクリプトアナリシス(シナリオを分析すること)をした上で演技にのぞむのだ。
次は何が起こるだろうというハラハラ感はまさに、クライマックスに達するまでのジェットコースターのあの感覚と同じだ。こういったアーチ型構造があるからこそ、ストーリーはドラマとなり、人の心に食いついて離れない。
終戦70年談話も「黄金構造」にはまっていた
8月14日に行われた安倍晋三首相の終戦70年にあたっての談話も、じつはこの「黄金構造」にぴったりはまるストーリーのお手本になっている。内容の踏み込み方についての評価はともかく、よく練られた名文との声も多かったが、流れの美しさ、言葉の使い方にはストーリーの要素がふんだんに取り入れられていた。
全体の構成をみると、
いわば、日本国という主人公の挫折と失敗、後悔、懺悔を経て、新たな国として再生していくストーリーと言えるだろう。そこにあるのは、すべてのストーリーにおいて最も重要な要素、つまり、クライマックスを転機とする主人公の変化・変革である。多くのストーリーで、主人公が困難に立ち向かい、克服し、「新たな自分」を発見する。つまり、始まりと終わりでは、主人公の人格や価値観、運命、考え方が全く変わったものになっている。まさに、トランスフォーメーション(本質的変容)、これこそがストーリーに最も欠かせないものだ。だからこそ、ストーリーは、ほかのだれかの気持ちに変化を起こさせたり、行動を喚起するような効果を発揮するというわけだ。
では、最後にまとめの鉄則。今回の黄金律はストーリー作りのヒントを振り返りでまとめよう。
② ストーリーはアーチの構造で語る。クライマックスに向けて事態を展開させ、シズル感を演出してみよう。
③ クライマックスを軸として、その前後で、主人公に変化が現れる。通販番組の「使用前」と「使用後」ぐらいの劇的変化が現れる場合もあるが、ほんの小さな気づきや意識の変化でもいい。
いかがだろうか。あなたのストーリーは自分自身や周りにいる人の人生をポジティブに変えていく可能性を持っている。そして、組織や地域や、社会を変えていくきっかけになるかもしれない。日本にはもっともっと、ストーリーが必要だ。
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