人を感動させるスピーチには黄金法則がある 安倍首相も活用する「アーチ構造」の秘密

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アクティングスクールのクラスでもストーリーの理論について学ぶ

前回ご紹介した、グーグルなどの企業からNGO、刑務所の収監者に至るまでさまざまな人々や団体にストーリーテリングを教えるドーン・フレイザーさんのワークショップでも、このストーリーアーチが教えられている。筆者が参加したアクティングスクールのクラスでも、ストーリーの基本構造として教えを受けた。

この構造をもとに、役者たちは、シーンはどのように設定されているか、どこでストーリーが盛り上がっていき、どこがクライマックスなのか、などといった緻密なスクリプトアナリシス(シナリオを分析すること)をした上で演技にのぞむのだ。

次は何が起こるだろうというハラハラ感はまさに、クライマックスに達するまでのジェットコースターのあの感覚と同じだ。こういったアーチ型構造があるからこそ、ストーリーはドラマとなり、人の心に食いついて離れない。

終戦70年談話も「黄金構造」にはまっていた

8月14日に行われた安倍晋三首相の終戦70年にあたっての談話も、じつはこの「黄金構造」にぴったりはまるストーリーのお手本になっている。内容の踏み込み方についての評価はともかく、よく練られた名文との声も多かったが、流れの美しさ、言葉の使い方にはストーリーの要素がふんだんに取り入れられていた。

全体の構成をみると、

①序章:「終戦70年にあたり、20世紀の歩みを振り返り、未来への知恵を学ばなければならない」
②ストーリー展開:西欧列強を中心とした植民地社会 → アジアで最初の立憲政治確立 → 日露戦争 → 第一次大戦 → 満州事変、国際連盟からの脱退 → 第二次大戦へ。
③クライマックス戦争突入、多くの命の喪失、そして敗戦。
④事態の収束:戦後の日本人に課せられた責務。日本人としての新たな自覚。
⑤エンディング「過去を胸に刻み、積極的平和主義を推進し、世界の平和と繁栄に貢献する決意」

 

いわば、日本国という主人公の挫折と失敗、後悔、懺悔を経て、新たな国として再生していくストーリーと言えるだろう。そこにあるのは、すべてのストーリーにおいて最も重要な要素、つまり、クライマックスを転機とする主人公の変化・変革である。多くのストーリーで、主人公が困難に立ち向かい、克服し、「新たな自分」を発見する。つまり、始まりと終わりでは、主人公の人格や価値観、運命、考え方が全く変わったものになっている。まさに、トランスフォーメーション(本質的変容)、これこそがストーリーに最も欠かせないものだ。だからこそ、ストーリーは、ほかのだれかの気持ちに変化を起こさせたり、行動を喚起するような効果を発揮するというわけだ。

では、最後にまとめの鉄則。今回の黄金律はストーリー作りのヒントを振り返りでまとめよう。

① まず、自分の中の人生の転機を探し出し、そこにどんな意味があったか、どういった教訓や発見があったのかと考えてみる。その教訓が聞き手に伝えたい、聞き手に興味を持ってもらえそうなメッセージであれば、ストーリーとして成立する可能性があるということ。

② ストーリーはアーチの構造で語る。クライマックスに向けて事態を展開させ、シズル感を演出してみよう。

③ クライマックスを軸として、その前後で、主人公に変化が現れる。通販番組の「使用前」と「使用後」ぐらいの劇的変化が現れる場合もあるが、ほんの小さな気づきや意識の変化でもいい。

 

いかがだろうか。あなたのストーリーは自分自身や周りにいる人の人生をポジティブに変えていく可能性を持っている。そして、組織や地域や、社会を変えていくきっかけになるかもしれない。日本にはもっともっと、ストーリーが必要だ。

岡本 純子 コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師

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おかもと じゅんこ / Junko Okamoto

「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれる。2022年、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。その飛躍的な効果が話題を呼び、早くも「行列のできる学校」となっている。

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